8-72【王国を敵に回す一撃6】



◇王国を敵に回す一撃6◇


 東の畑付近。

 そこでは、片翼となったクラウがいた。


「ミオの奴!いきなりやって来ていきなり消えてって!アドルさんを回復しろだの火を消せだの!人の気も知らないで!!私はこの後北門に戻るんだけど!!」


 愚痴を言いながらも、クラウはミオから強引に渡された・・・・能力で、畑に放たれた炎を消す作業をしていた。


「フドウくんもフドウくんだわ!」


 たったの一分前を思い出して、クラウは怒りのままに風を起こす。

 それが、ミオが【譲渡じょうと】によってクラウに授けた能力――【護風ごふう】の効力だった。

 そしてそのきっかけが、ユキナリ・フドウによるクラウの投げ飛ばし。




「おチビ!平気か!」


「――フドウくん……平気だから降ろしなさい。踏むわよ」


 翼をどこからか飛んで来た魔法によってぎ取られ落下したクラウを、ユキナリは身体で受け止め、感謝の言葉もなくこれだった。

 しかしそれと同時に。


「「――!この反応!!」」


 二人とも気付く。

 近くに覚えのある反応……ミオだと。

 ユキナリはもともと、クラウは【超越ちょうえつ】したことで【感知かんち】の範囲が広がり、気付く事が出来た。


「おチビ、ミオっちだ!」


「分かってる!来てくれた……ミオ!!」


「じゃあ行って来い!北は止めておくからなっ!!」


「――へ?」


 そうしてクラウは投げ飛ばされた。

 ユキナリの肥大した、魔物の腕で。





「――ぁぁぁぁぁぁぁっ!――だぁぁぁぁぁぁぁっづ!!」


 ドッ!ガッ!ズザァァァァァ!!

 常人では見えない速さで、ミオは飛行して……いな


「……し、死ぬかと思った。飛行どころじゃないだろ……よく身体ばらけなかったなぁ」


 水蒸気爆発の爆破地点から吹き飛んで来たミオは、見事に村の地点に着地……ではなく着弾した。

 それでも無傷なのは……


『――飛行距離も着弾地点も計算通りです。【丈夫ますらお】と【ミストルティン】のおかげですね。そうねー』


「だから一緒に言うな!だけど、【カラドボルグ】も【ミストルティン】も、その衝撃で壊れちまったぞ、戦闘どうすんだ!」


『解放すればいいでしょ、どれくらいの武器持ってると思ってんのよ』


「持っててもセンスがねぇんだよ戦闘の!向き不向きもあんだろ!」


 そうである。

 ミオが無暗に能力を解放しないのは、その能力や武器を使いこなせないと考えたからだ。

 いくら転生者の超性能でも、本来持ったセンスは別だ。

 瞬間記憶で、使い方は理解できる。

 それは能力に限らず武器も同じだが……ミオの場合刃物への恐怖心トラウマもあり、なかなかに武器の解放が進まなかったのだ。


『なら能力にしなさいよ』


「何故かしらウィズがやらねぇんだよ!タイミングがどうたら!ってそれどころじゃない!ここは……村の近くだなっ」


『その通り。もう少しで村の東口です……』


「……そうか、なら急がねぇと――っておわぁぁぁぁぁ!!」


 湖に落下した時点では、その光景はまだ視界に入らなかった。

 しかし、ここはもう村の目と鼻の先……少し進めば村の東門がある場所だ。

 つまりはアボカド畑の最短地点……その場所が、炎上の真っ最中なのだから。


「噓だろ……村が、山が燃えて。畑が!間に合わなかったのかよ!」


『残念だけど、炎上には間に合わなかったわ……でも、人は無事よ』


「村人って意味だよな?全員だな……家族も!!」


 ミオが最も優先するのは家族や友人、そして信頼できる者たちだ。


『今はあたしの家の地下に避難させてる……レイン以外は』


「……レイン姉さんは!」


『――魔力反応!北です!!』


「は?」


 先程の自分のように。

 その魔力の反応はミオを目掛けて飛んで来た。


「――ぃゃぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」


「……クラウ姉さ――んんんんんんっ!!」


 ゴチーーンッ!!


 そうして、ミオとクラウは再会したのだった。

 頭と頭で。

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