8-64【必死の迎撃6】



◇必死の迎撃6◇


 北門付近に停車する、人一倍豪勢な大馬車。

 戦闘区域まで届かないその場所。家程に大きなその大馬車の上部は、乗り降りが可能であり……そこには戦況を見守る女性、聖女がいた。


「……」


 何かに集中し、構える杖の先には熱源が集約されている。


「……せ、聖女様の……魔法」


 聖女レフィル・ブリストラーダの後方には、【王国騎士団・セル】の騎士カルカが。その光景にゴクリと喉を鳴らし、神秘的な光を目の当たりにしていた。


「集約されるは神の意志、進むは我が心、穿うがち焦がせ、天に邪する幼子の反旗を許すな……慈悲も無しその真意にて、喰い散らかせ!!」


 それは、許しを与えぬ神の魔法。神聖魔法。

 聖女が聖女と知らしめる、もう一つの理由。


「――【次元壊滅暴食球ディメンション・イーター】!!」


 杖の先端に凝縮された魔力は、手に収まるほどの球体。

 聖女の咆哮さけびと共に、それは射出される。

 狙い定めるは……四翼の天使。


 この空間で最もイレギュラー。

 聖女レフィル・ブリストラーダが邪魔者と定めた、一人の少女。


「喰らいつくしなさいっ!」


「――す、すごい……きゃ、きゃぁぁぁぁぁ!」


 高速、いや音速とまで取れそうなほどの加速度で、その球体は飛んでいく。

 射出の余波で、後方待機のカルカが吹き飛んだ。

 近くの木々や岩肌まで巻き込み、聖女の髪を暴れさせて、その悪意の球は凄まじい勢いで消えて行った。


「うふふ……これで一つ、お邪魔虫はご退場でしょう?」


 ニヤリと浮かべるその顔は恍惚こうこつ

 自分のやるべきことを邪魔してきたもの、それを排除したと言う自負。


「さぁ、これで真っ赤な世界は作られる……お前たちの初陣ういじんにふさわしい舞台よ」


 聖女は大馬車の下を見下げる。

 そこには、檻がある……その中には、肉体を極限まで強化され、人の心を失った、形を変えた化物たちの姿があった。





「――おチビ!!あぶねぇ避けろっ!!」


 瞬間的に察したユキナリは叫ぶ。

 自分でも避けられないと、本能で気付いたその気配。

 悪意の塊。それが、夜空にたたずむ天使に迫る。


「くそっ、気付いてねぇ!悪く思うなよっ!!クラウ・スクルーズ!!――【アサルトヴァイン】!」


 集中しすぎて声の届かないクラウに、ユキナリは【グリフォンネイル】を解除して、植物型の魔物から奪った、つるの能力を発動。

 それをクラウの足目掛けて、放った。


「だぁぁ!高くまで上がり過ぎだっつの!……伸びろぉぉぉぉ!」


 シュルル……ガッ!


 空高く浮かぶクラウの爪先に、ギリギリで巻きつく事に成功。


「――え、な!……――はっ!!ぅぐぅっ……!!」


 足元に絡みつくつるのおかげか、集中が途切れ、気付く。

 自分の身体目掛けて飛来する球体に寸でで気付き、クラウは身動みじろぐ。

 そしてかすめるように、クラウの右の二翼を……喰いちぎった。


「おチビ!」


「ちょっ、ユキナリ!後ろ!――あ、矢がっ……!!」


 ユキナリは予測できるであろう、翼を失ったクラウの行く先に駆け出す。

 一人残されたライネは目撃した。

 無数の火矢が……村を目掛けて飛んでいく瞬間を。

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