8-63【必死の迎撃5】



◇必死の迎撃5◇


 村の北部。クラウたちが絶賛戦闘中の場所で、クラウの視界にその光景が映った。


「なっ……なんで東にっ!!」


 炎が上がった。場所は村の東の学校付近、裏山にあるミオの畑がある場所から。

 今、クラウは空中からそれを目撃したが、どうにも火の回りが早い。


「――おチビ!魔法だぞあれ!」


 下にいる二人の帝国人も気付いたようだ。


「まさか、伏兵!?……それも東から、なんで!!くっ……この、【貫線光レイ】!!」


 援軍として現れた新しい騎士は、非常に統制とうせいが取れていた。

 無謀な進軍もしない、防御も攻撃も反撃もする……その代わり、斬れば確実に死ぬ。


「こいつらは任せて、あっちに……!いや、やっぱ駄目だ!!」


「そうです!また新しいのが来ます!!あれは……弓兵です!!」


 地上にいるユキナリとライネが叫ぶ。

 その言葉通り、後方の大馬車から出てきたのは、大量の弓兵だった。


「そんな、あれって……」


「あいつら……火だ!!村に火を放つ気だぞ!」


 大量の弓兵は、軽く二百を超えているように見えた。

 第一陣の死なない兵士、第二陣の統制とうせいのとれた兵士、それに加えた第三陣、火矢を持った……弓兵だ。


「くっ……【光翼貫線光フェザー・レイ】!」


 チュドドドド――……


「やれた……いえ、駄目です!騎士が防御をっ!!」


 ライネが叫んだ通り……第二陣の統制とうせいのとれた騎士たちが、弓兵の壁となっていた。


「そんな、貫通しない!?」


 クラウの【貫線光レイ】はその名の通り貫通する光だ。

 しかも今は全力。加減の威力ではない。それをくらい、兵士たちは耐えたのだ。


「ちっ、あれか……後ろにもいるぞ!魔術師・・・がっ!!」


 舌打ちするユキナリの言う通り、弓兵が出てきた大馬車の更に後方に、魔術師の部隊がいた。

 その魔術師たちが、第二陣の騎士たちに防御魔法をかけていたらしい。


「まさか、始めから……」


 第一陣の意思のない兵士は、始めからおとりだった可能性。

 何も出来ない、反撃もしないただの人形だと、軽い戦いだと思わせるための。


「マジィぞライネ!遮断しゃだんは!?」


「無理に決まってるでしょ!戦闘中だっての!!――ハァ!!」


 ライネが敵を斬り伏せながらユキナリに叫ぶ。


 そして……大量の弓兵が構えを始めた。

 火矢をつがえ、上空を狙い……いや狙いなどない。

 無差別に、村が射程に入っていればそれでいいのだと。


「私が止めるっ!!私がやるしかっ!」


 クラウは【クラウソラス】を構え、【光翼貫線光フェザー・レイ】の光球をチャージする。

 しかしすぐには撃たず、一つ一つを操作する感覚で、集中する。


「全部を……撃ち落とせばっ!」


 矢は何本あるのか。

 次をるまでの時間は。

 どこまで届くのか。騎士たちからの邪魔は。魔術の邪魔は。


 山ほど考えさせられる。

 軽く数えても二百を超える火矢、それを全て的確に撃ち落とす……それをしなければ……そう考え、極限に集中を始めたクラウだったが。


「――おチビ!!あぶねぇ避けろっ!!」


 何かに気付いたユキナリの怒号も、集中を始めたクラウには届かなかった。

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