8-61.5【嗜虐な愛情】



嗜虐しぎゃくな愛情◇


 【リードンセルク王国】、【王国騎士団・セル】団長……リディオルフ・シュカオーン。

 貴族の家に産まれ、平々凡々へいへいぼんぼん……何事もなく過ごした人生だった。

 数年前、【リードンセルク王国】と戦争状態だった【テゲル】の敗残兵に捕らわれ、奴隷どれいとなる。

 退屈だった日常に、後悔はない……だから抵抗もせずに虜囚りょしゅうとなる事を受け入れ、共に奴隷にされた二人とは違い、全てに興味が無い様な態度をし続けていた。


 しかし、出会いがあった。

 数奇な展開で助けられた村には、目をみはるほどの美女がいた。

 スラッとした身体に長い金髪の髪、豊満な胸、優しさを強調したようなたれ目。

 全てにおいて……手に入れたい。そう思わせるような女性だ。


 だが、彼女はなびかなかった。

 いくら取り繕っても、褒める言葉を掛けても、彼女は一切リディオルフを受け入れなかった。

 時間が経ち、奴隷どれいから解放されても……彼女への想いは尽きなかった。

 だから貢物みつぎものとして、週に一度の贈り物を送った。

 花にお菓子、ぬいぐるみに高価な飾り、外国の珍しい工芸品など、ありとあらゆる物を送った。

 時には手紙に愛の言葉をささやいた。


 それでも彼女は落ちなかった。

 そんな時だった……リディオルフ・シュカオーンが、転生者としての記憶を取り戻したのは。

 不思議と、記憶が戻っても忘れられなかった。

 人格は完全に別の者……だが、脳髄に、心に刻まれた思いが……消せなかった。

 それどころか、思いは強くなった。


 愛したい。愛されたい。自分の物にしたい。犯したい。壊してしまいたい。

 狂ったようにレインと言う女性に暴愛を抱き……そうして手に入れた。

 転生者だけの……転生の特典ギフトを。


 能力を試しているうちに、【女神イエシアス】に見込まれた。

 とんとん拍子に出世をし、ついには【王国騎士団・セル】の団長になった。

 タイミング良く、前団長が辞意を表明したのだ……だから好機だと、能力を生かしてライバルを蹴落とした。


 女王にも上手く取り入り、生かせてもらえた。

 僥倖ぎょうこうだと思った。

 天が味方したと、愛の前には不死の女王すらも屈するのだと。


 全ては……レイン・スクルーズと言う最愛の女性を、手中に収めるために。

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