8-61【必死の迎撃3】



◇必死の迎撃3◇


 村の東、学校の裏山にある……【スクロッサアボカド】栽培畑。

 ほんの少し前……今日の作業をやり残した二人の人間がいた。

 正確には、一度帰宅途中だったが……ミスを思い出して戻って来た、だが。


 それは、レイン・スクルーズとアドル・クレジオだ。


「ふぅ……ごめんねアドル、付き合わせちゃって。夜遅いのに、明日にすればよかったんだけど、やっぱりミオの畑だし」


「あはは、いいんだよレイン。これも僕の役目さ……それにほら、もう僕も一人前だろう?」


 むんっ!と腕捲りをして見せるアドルに、レインも笑う。


「もう、アドルったら」


 一般的に見れば、二人は良い仲に見える事だろう。

 過去には貧乏人などと悪口を言う様な少年も、今はこうして立派な農家になっていた。


「さ、もう少しで終わりだよ。早く帰って、村長に報告しないとなっ。あ~でも、遅いから明日でもいいかな?」


「う~ん、そうね。失敗して遅れてしまったけど……しっかり直せたし怒られはしないと思うけ……ど」


 言葉を詰まらせたレインに、作業を中断してアドルが声を掛ける。


「……レイン?」


「ね、ねぇアドル……あっちに誰か、いない?」


「え?」


 暗がりで見えないが、レインの耳に音が入った。

 レインはアドルに寄り添い、目を細めて。


「だ、誰かいますかぁー?」


 怯えながら、暗がりにそう問う。


「はは、レインも怖がりだな……誰もいないよ、こんな時間に」


「そ、そうよね。気のせいよね」


 汗を拭う仕草をして、レインは作業に戻ろうとした……しかし。


 ガサッ――


「や、やっぱり何かいるわ!!」


 アドルはレインを庇うように立ち、たがやし用のクワを持って叫ぶ。


「だ、誰かいるのか!!」


 シーン……と、答えは帰ってこない。


「……」


「やっぱり気のせい、もしくは動物じゃないのかい?」


 安心させるように、アドルはレインの肩を抱いた。

 レインも抱かれた手を握り「そうかしら……」と安心した表情を見せる。


 その瞬間だった。


「「――!!」」


 射抜かれるような、憎悪を籠められたような視線が、二人を貫いたのだ。

 正確には……アドル・クレジオ、ただ一人に。


「――いやー……最悪だ。最悪だよお前……!」


「だ、誰だ!!」


 畑のある更に東の奥。

 その闇の中から、一人の青年が出て来た。


「……あ、あなたは」


 髪を搔き上げながら、苛立ちを隠そうともせず。

 目尻を吊り上げ、口端を引き攣らせ、アドル・クレジオを睨み付ける。


「知っているのか、レイン……」


 アドルはレインを自分の後ろに下げ、クワを青年に向ける。


「この人、昔にこの村で助けた……その」


 奴隷どれいと言う言葉を使ってはいけない。

 そんな気がして、レインは口ごもる。


「……まさか、君に何度も何度も贈り物をしてきていた……?」


 コクリとうなずくレイン。

 レインは人知れず悩んでいた……毎月のように、毎週のように届く花やぬいぐるみ。外国のお菓子や珍しい玩具、時には愛をささやくような手紙まで。


「ああ!良かった、届いていたんですねぇ……てっきり届いていないのだと、恥ずかしくて返事も出来なかったんだと、心配していたんだ、届いていてよかったよ……僕の愛がっ」


 その自分本位な言葉に、レインは「ひっ」としゃくり声を上げて怯む。

 初めて、人生で初めて……人を気持ち悪いと思った。


「な、なにが心配だ!こちらは迷惑をしているっ!!帰ってくれっ!」


「――黙れよぉ。この……ゴミカスがぁ!!」


 アドルの言葉は逆撫さかなでするだけ……ミオがいれば、あるいはクラウがいれば、この男の執着心と暴虐性に火をつける事はなかった……のかも知れない。

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