8-58【向かうべき場所3】



◇向かうべき場所3◇


 雨曇鳥あまぐもとりと呼ばれる魔物、【レインバード】との戦いはどれくらい続いたのだろう。

 時間的には短かった筈。だけど、俺には長い長い時間をかけた……かかってしまったように思えた。


「はぁ……はっ。なんでこんなに、体力が奪われるんだよっ」


 何とか倒した【レインバード】の死骸が【魔力溜まりゾーン】へ還っていく。

 それを見ながら悪態をつき、俺は【カラドボルグ】をしまった。


「こちらも終わった。急ぐぞ皆!」


 ジルさんがそう言ってくれる。

 だから素直に馬車に乗るが。


「……どうした、ファル?」


「「……」」


 ジルさんの愛馬、ファルの様子がおかしい。

 俺とルーファウスは嫌な予感に目を合わせて、もう一度馬車を降りた。


「ジルさん、どうしました?」


「いや……ファルがな」


 鳴きもせず、動きもしない。

 静かに呼吸はするが……どうも何かを嫌がっているような、そんな感じに取れた。


「他の馬は、なんともないですね」


 ルーファウスが言う。

 ファルの他に里から二頭の馬を借りたのだが、その二頭は何ともない。

 ファルだけが様子が違う。なんでだ、こんな時に。


 ブルル……と、ファルは震えるように首を振る。


「くっ」


「――ミオ」


 歯嚙みする俺に、馬車内からミーティアが。


「ティア?どうした……?」


 あくまで冷静に、落ち着いていると見せる。

 しかしミーティアに、そんな子供だましは通じなかった。


「もう、我慢しないでいいから」


「え……」


 ミーティアは、そっと俺の手を握った。

 無意識に、力一杯握り締め、爪が食い込んでいた俺の手を。


「ごめんね、かせになって」


「な、なに言って」


 まるで図星を突かれたかのように、俺は眉をひそめる。


「ミオ。私たちを置いていけないって……そう思ってない?ううん……思ってる筈、感じてる筈だわ」


「……そんなこと」


 ない。とは言えない……だから俺は肩を落とす。

 その言葉に、自分の考えに。


「ミオ。私たちの事は気にしないで……行って」


「だ、だけど!……俺には」


 置いて行くなんて出来ない。

 前世で持てなかったもの。家族、仲間、恋人。

 必要なんだ。俺には……俺には!


「大丈夫。私たちを信じて……必ず追いつくからっ、ね、ジル。ルーファウスさんも」


 信じてるさ。信じてるからこそ……一緒に。


「――ミオ。わたしたちに遠慮は要らないぞ……里を復興させてくれる可能性を持つお前を、手放すわけないだろう?……大丈夫、ファルも少しすれば落ち着くさ」


 軽くウインクをして、ジルさんは笑う。

 こんな時にでも冗談言うんだから……敵わないよ。

 冗談かも怪しいけどな、あはは。


「そうですよミオくん。僕は今のところ……確かに契約という関係性ではありますが、それでもミオくんと少しの間一緒にいて、勉強にもなるし、なにより楽しいです。だから僕も協力しているんです」


「ジルさん、ルーファウス……ティア」


「……うん。行ってミオ、行って村を……クラウやアイシアを!」


「ああ、ああ!!」


 信じるとは、見離さない事じゃない。

 見捨てるんじゃない。共に分かち合い、助け合い……真の意味で信じる事が出来るんだ。


「ティア、ジルさん、ルーファウス。勝手だけど……俺は先に行くよ。だから、必ず追いついてくれ!俺には、皆の力が必要だっ !」


 俺は手を翳して、修復途中だった馬車を一瞬で直す。

 それを見て、三人も。


「うん!」

「ああ」

「はい!」


 と返事をくれた。


 肩の荷が下りた。胸のつかえが取れた。

 解放されていくように、本当の意味の信頼を……俺は得たんだ。


「ティア、ありがとう」


「――え」


 俺は、ティアの頬に口付けをした。

 雨に濡れたその髪を撫でて……笑顔を見せて。


「ティアのおかげだ……最高の、自慢の恋人だっ」


 恥ずかしげもなく、抱きしめる。

 こう……ガバッ!!と。


「……も、もう、二人きりの時にしてよ……」


 優しく抱き返し、ミーティアも笑う。


「ははっ。続きは今度なっ!!」


 離し、冗談交じりにそんな事を言う。


「も、もう!!」


 顔を真っ赤にして、ミーティアは俺の肩を叩く。

 力のない、優しい一撃。だけど……気合いを貰った。


「先に行く。ルーファウス!二人の護衛、頼んだからなっ!」


「……はい、任せてください……必ず」


 残される唯一の男、ルーファウス。

 何か重みのある返答だ……だけど、今は信じるしかない。

 だから彼に女性陣を任せ、俺は【極光きょっこう】を足に纏い。


「――【光の道オーラロード】」


 静かに呟くその言葉と同時に、俺の足元から虹がかかった。


「【カラドボルグ】!」


 俺はその虹に【カラドボルグ】を置き、乗る。

 大きさは充分。ボード代わりだ。


「じゃあな、待ってる!!――【紫電しでん】!!」


 電磁砲のように、【カラドボルグ】に電撃を纏わせた俺は、虹をレールに見立てて射出された……仲間三人の善意を受けて、危機が訪れる村に帰るんだ!!

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