8-57【向かうべき場所2】



◇向かうべき場所2◇


 村に戻る。たったのそれだけの事だ……なのに、どうしてこうも遠く感じるんだ。

 最短ルートだった崩落した崖道、そこを直すこと自体は、【無限むげん】ですぐに終わった。

 だが、この大雨……それに風もだ。

 まるで台風、世界的に言えばハリケーンか。


 馬車での移動しか選択肢はない。

 単独の行動、それも考えたさ……だけど、今の俺に、仲間である皆を置いていく選択肢はなかったんだ。


「……行けそうですか?」


「ああ。風にあおられて馬車の天幕がはがれそうだが、それくらいだ」


 それは俺が直す。

 手をかざし、【無限むげん】で天幕と馬車の継ぎ目を固定する。

 ついでに車輪と本体も強固に……今日二回目だ。


「……」


「ミオくん、魔物です!」


 な……なんで重なるんだよ急いでるのに!!


「くそっ……どこだっ!」


「上よっ」

「上だ!」


 修復を中断して、俺は言われた通りに上空を見る。

 雨が視野を狭める……風で身体があおられる。


「鳥型!?……この大雨で!?」


「【レインバード】です!これは……巣だ!!」


 ルーファウスが周囲を確認しながら、雨の中現れた鳥型の魔物の詳細を教えてくれる。崖の上、そこにある枯れた大木に、大きな巣が傾いていた。


「あれか。あれが風で……だから真下にいる俺たちを、犯人扱いしたって事か!」


 ギャアギャアと、真上で泣き叫ぶ【レインバード】。

 くそ、レイン姉さんと同じ名前しやがって……嫌な予感させるんじゃねぇよ!!


 俺は落ちていた石ころを拾い上げて、思い切り振りかぶって投げる。


「――【石の槍ストーンスピア】!!」


 ヒョーン……って当たんねぇ!!


 横殴りの風と雨、俊敏に動く標的、視界の悪さも相まって、投擲とうてきには不向きだ。

 ならば何故やったと言われれば、腹立たしかったからだよ!


「ミオっ……まだ増えるわっ!」


 ミーティアも氷の弓矢でる。

 俺なんかよりもよっぽどの命中率で、一羽の【レインバード】を落とした。


「【紫電しでん】は……感電するから駄目!なら【極光きょっこう】で」


『――【極光オーロラ】は、光の屈折を利用するので、天候不順だと効果は半減します。物理攻撃が最善かと』


 畜生ちくしょうが!!


「ミオっ!そっちにもいくぞ!!」

「ミオくん!二羽行きました!」


 ジルさんとルーファウスの声が聞こえる。

 二人共動いて戦ってる……くそ、俺だけ何も出来てねぇじゃねぇか!!


「――【カラドボルグ】!」


 金色の刀身の大剣を呼び出し、構える。

 もう近寄って来たところを斬るしかない。

 【煉華れんげ】も考えたが、馬車に燃え移ってしまったら一巻のお終いだ。

 よって却下……天候が、こうも俺の戦力を下げるとは思わなかったぞ!


 せっかく【破壊はかい】の影響下から戻ったって言うのに。

 俺はまたつまずいていた。

 まるで、焦る気持ちとリンクするように。

 村や家族の事を思うと……こんなにも空回る。

 急がなければならない。そう思えば思うほど、俺はドツボにハマっていく……

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