8-56【向かうべき場所1】



◇向かうべき場所1◇


 村でクラウが防衛戦に入る前の時間……【テスラアルモニア公国】、エルフの里周辺の道に、一台の馬車があった。

 雨が降る夜間の中、どこかへ向かっている……しかし、それは険しい道だった。


「あぶねぇジルさん!止まれ!!」


 ガラガラッ――!!と、馬車の頭上の崖が崩れた。

 少年の叫びに、馬を駆るエルフの女性は手綱たづなを思い切り引き。


「――くっ!!」


 ドッ――……ン……!!


「……か、間一髪だったわね。ジル」


「ふぅ、助かったぞミオ」


 崩れた岩は馬車の横の道にぶつかり、そのまま崖下に落下していった。

 それを見ながら、ミーティアとジルリーネは汗を拭い安堵する。


「いえ、俺が能力で片付けられればよかったんですけど……ギリギリだったな」


 ミオは馬車の中で、ルーファウスと今後の作戦を立てていたのだが、能力【叡智えいち】こと、ウィズの言葉で気付く事が出来たのだ。


「この雨の音だ、気付けたのは幸いだったぞ」


「いきなりミオくんが大声出したのはビックリしましたけど……」


「はは、すまん」


 ルーファウスが左胸を抑えながら笑う。

 村へ行く為の最短ルートを話し合っている最中に、突然の大声だったのだ、おどろくのも道理だろう。


「それにしても、凄い雨だな……」


 馬車から顔を覗かせ、ミオは外を見る。

 エルフの里にて村の危機を知り、そのまま女王ニイフに馬車を用意してもらい出立、森の拠点からエルフの里までの道をミオが【無限むげん】で整備し、こうして進んで来たのだが……このように雨に見舞われていた。


(時間がねぇってのに……くそっ)


 ミオにも焦りがあった。

 【ステラダ】から村まで、道を整備したことで最短半日。

 休憩なしでの話だが、それでも二日掛かっていた時間がそこまで短縮されているのは、整備した本人であるミオがよく分かっている。


『――ご主人様』


(ウィズか、どうだ?)


 ミオは、里を出た直後からウィズに頼みごとをしていた。

 それは。


『頼まれていた【女神アイズレーン】への連絡ですが……やはり取れません』


(取れない?)


『あちらから強制的に介入される事はよくありましたので、こちらもそれを試したのですが』


(逆ハックか……何やってんだよアイツ、こっちから連絡出来んのは、お前くらいしかいないんだぞ)


 【女神アイズレーン】。

 村に居るはずの、傍若無人ぼうじゃくぶじんの汚部屋の女神。

 アイズからの連絡、と言うか一方的な連絡はたびたびあるが、こうしてこちらからの連絡は受け付けない。

 ウィズが工夫を凝らしてどうにか回路を繋ぎ、連絡を試みてくれたが……結果はこの通りだ。


『どうやら認識阻害の魔法をかけているようです』


(認識阻害?それじゃあ……まさか村でも?)


『そのまさかでしょう。【女神アイズレーン】は、誰からも認識されない状態にあると思われます……』


 なんでそんな事を、とミオは考える。

 実際に、クラウがアイズを訪ねたのは前日。

 村の宿で会話をし、その後にその魔法をかけていた。


(こんな時に……村はどうなってんだよっ!)


 里を出て数時間。

 崖道の整備と豪雨に時間を取られ、中々に進まない。


「……」


 苦々しく外を睨むミオを、ミーティアが見つめている。

 心配そうに、何かを案じながら。

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