8-55【天使と化物4】



◇天使と化物4◇


「うっわ……すげぇ数だなこりゃ」


「感心してないで戦いなさい!戦力にするって言ったでしょ!」


 向かってくる白い鎧の騎士たちを薙ぎ払い、クラウが叫ぶ。

 言葉を向けられたユキナリは、木の上から様子を見ていた。


「いやそれにしてもさ、クラっち、これはマジですげぇって。あれだよあれ、蟻の魔物アントラの大群!」


 この世界でも小さい部類の魔物……アリの姿をした魔物に例え、ユキナリは感心する。


「分かるけど!!」


「私的には魚群ですね。イワシの」


「吞気なのっ!?」


 ぞろぞろ出てくる兵士の感想を言うユキナリとライネ。

 わざわざ二人にツッコむクラウ……少しだけ余裕が出たらしい。


「いいから戦って!!……【孔雀貫線光ピーコックレイ】」


 扇状に射出された光線を、クラウは薙ぎ払う。

 そうすることで、多段ヒットする光線。


「おわっ!木が折れ……たぁぁぁぁぁぁっ!」


 光線は木も薙ぎ倒した。

 ユキナリが上にいた木もだ。


 スタッと降り立ち、ユキナリはそのまま。


「【アスラハンズ】アーンド!【グリフォンネイル】!!」


 背中から腕を四本出現させて、その腕に魔力のオーラを纏わせる。

 さながら六本腕の魔獣だ。


「……なにそれ、神様のつもり?」


「え、あれ……普通はバケモノって言うんだけどな……かはは」


 クラウはその姿を見て、地球での神仏、阿修羅あしゅら神を思い浮かべた。

 これは転生者ならではであり、この世界の原住民ならば、まず間違いなく化物と怯え叫ぶだろう。


 器用に魔物の腕で頭を搔くユキナリ。

 薄く頬を染めて、苦笑い。


「は?何その照れ顔……黙って戦いなさいっ」


「いて、いてぇって!足踏むなっ!」


 怒っているようで、ユキナリは笑っていた。

 その空気に、容赦のない言葉に。


「……意外」


「ほら、ライネさん……だっけ、あなたも戦って!」


 小さく呟くライネにも、クラウは容赦なく。


「あ、はい」


 ユキナリの足を踏み、ライネに言葉を掛けて、クラウは【クラウソラス】を構えた。四翼を光らせ、剣から光を放ち、六本の腕の化物と並び立つ。

 この中で唯一、素の人間……ライネは思う。


(なにこの二人)


 三人が並び、迎えるのは【ブリストラーダ聖騎士団】の死なない騎士たち。その数八百。

 全てを倒せるなどと、そんな事は言わない。

 ただ少しでも、ほんの少しでも被害を減らしたい……そんな思いを持ち、クラウは光の剣を構え言い放つ。


「……掛かって来なさいっ!!」


 もう、少し前のように取り乱すようなことはない。

 変な確信があった。天上人に【超越ちょうえつ】し、意外な味方を得て、クラウは吹っ切れたのかもしれない。

 その姿は世間的に見ても、勇者、果ては英雄……そう呼ばれるような人物たちの、歴史に名を残していた人物たちと重なる事を、今は知らない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る