8-53【天使と化物2】



◇天使と化物2◇


 侵攻する王国兵は、およそ九百。

 クラウが確認した時点で千以上いたが、それが少し減った状態だ。

 それを成したのはクラウ一人、そして……その影で動いていた帝国の二人。


「で、どうすれば正解?」


「村には入れたくない」


「ですが、ここまでこられては三人では防げません。最低限数を減らし、被害を抑える事が最善でしょう」


 背中合わせの三人は向きを揃え、王国兵に立ち塞がる形で並んだ。

 共闘……クラウ・スクルーズにそんなつもりは一切ないが、奇しくもそう言った形なのは事実。


「……戦力だと思っていいわけ?」


「おう。任せろって」


 魔力のオーラをまとった腕のまま、ユキナリは親指を立ててサムズアップ。

 「器用な事をする……」ユキナリの左右に立つ少女二人は同じく思った。


「……それじゃあ、行くわよっ」


 今は少しでも戦力が欲しい。

 クラウはこの場にユキナリたちがいる事を不思議に思ったが、言及には至らない。

 そんな余裕は皆無。自分を守るために、村を守るために、利用してやる。

 そう思うことにしたのだ。





 三人が戦い始めて、数分が経った。

 たったの数分間、一人も通さずこの場を守り通していたが。


「なんだこいつらっ、どんどん湧いてきやがって……うぜえ!!」


 魔力のオーラをまとった腕を振り回し、異常な爪を以って兵士たちを両断するユキナリ。

 【アロンダイト】を用い、帝国剣技を操り兵士たちをほふるライネ。

 そして【クラウソラス】をかがやかせて、熱線を放ち敵を蒸発させるクラウ。


「……やるじゃないですかっ」


「それはどうもっ!」


 ライネの称賛に、クラウは短く答える。

 【クラウソラス】の光はドンドン大きくなり、近くにいる二人にも熱を感じさせるほどだったが、不思議とダメージは無かった。


「ねぇ先輩。あの人……天族じゃなくないですか?」


「あ?いや天族だろ、瞳が緑だぞ?」


 ライネが感じたのは、同僚であるロイド・セプティネと同じ感覚だった。

 ロイドは魔族の上位種、魔人だ。それと同等の波動を、ライネは直感的に感じたのだ。


「――そっち行くわよっ!」


「お、おう!……おらっっ!!」


 ドグシャ――と、上半身を吹き飛ばされた兵士が地面に倒れる。

 ビクンビクンと痙攣し、確実に生きてはいない筈だが、足だけが動く。

 まるで進んで行こうとするように。


「これ、本当にゾンビですね」


「ゾンビなら、頭を潰せばってのがセオリーじゃないの?」


 ライネの隣に戻って来たクラウが言う。


「そのはずですが……そう言ったものが通用しないのが、魔力と言うものなんでしょう」


「それもそうね」


 既に二百人。

 時間にして十数分で、二百人の人間が死に至った。


「あなた、慣れているのね」


 クラウはライネに言う。

 迷いのない剣筋、命を絶つその剣技にクラウは関心をする。

 しかし同時に、怖さもあった。


「……仕事ですから」


 ライネはそう答えるが、ライネとて罪悪感がない訳ではない。

 地球の人間として育った人には、誰しもがその道徳を軽んじてはいけない。

 しかしここは異世界であり、人の死は常に隣にあった。


「――ごめん。軽率だった」


 クラウも承知の上だ。

 だから謝罪した……慣れているなどと、勝手な事を言ったと。


「いえ。ん……?クラウさん、あれ。来ましたよあの大馬車」


「そうみたいね。流石に限界かしら……」


 一筋、頬から汗を流して。

 静かに迫る大馬車……数台を視界に入れる。


 馬車には約百人が乗っている。

 そう考えれば、今目の前に現れたこの五台に、単純に五百の戦力が乗っているという事だった。

 対峙するのは三人、相手は馬車の五百と既存の歩兵三百。


 村が赤く染まる時は、無情にも近かった。

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