8-51【防衛戦5】



◇防衛戦5◇


 地上に向け飛来する四翼の天使。

 それを、村から少し離れた場所から見ている人物たちがいた。


「戦いが始まりました。どうしますか、ユキナリ先輩」


「あれがクラっち?前よりもなんつーか……羽増えてね?」


「知らないわよ」


 【帝国精鋭部隊・カルマ】の二人、ユキナリ・フドウとライネ・ゾルタール。

 彼らもまた、【リューズ騎士団】との戦いの後、王国軍を追って来ていた。


「……俺らの任務は帝国領に王国軍を入れない事。もう失敗しちまったけどな、かははっ」


「笑い事じゃない」


 今日は終わりのつもりだった。

 任務には半分失敗だと、二人共認識している。


 だが、帝国の領土が攻め入られているのは事実。

 放っておくことは出来ないし、放っておいたら皇女に怒られる。


「だから連絡するんだろ?【ルーマ】は?」


「もう直ぐ魔力チャージ完了。でも本当にいいんですか?セリスフィア殿下にご報告なんて……絶対に怒られますよ」


「そーじゃなくても怒られるって。任務失敗してんだし。お!戦闘開始だ……クラっちの戦い、見ておけよライネ。同じ聖剣使いなんだからな」


「――【ルーマ】に魔力入れろって言ったり、戦い見ろって言ったり!」


「ぐほっ……!」


 横にいるユキナリの腹をドゴスと殴り、ライネも立ち上がる。

 ユキナリは脇腹を抑えて「ってぇ……」と涙目だが、ライネは無作法に【ルーマ】をユキナリに渡し、もう一つの魔法の道具――【トゥーマ】を覗く。


 それは、望遠鏡のようなものだった。

 形はルーペのようなものだが、魔力に反応して遠くの映像を確認できる。


「あの金髪の女の子が、クラウ・スクルーズ。報告にあった天使ね……本当に翼がある。き、綺麗ね……私よりも年下かな」


「確か、もう十八だよ」


「……」


 ユキナリの一言で、ライネは目を細めた。

 どう見ても子供……それなのに、あれだけ戦えていた事におどろいていた時間がもったいないと思ってしまった。


「お!通じたぞライネっ!」


 ユキナリは小型の【ルーマ】……魔法球体の起動に喜ぶ。

 もう何度も使用しているのだが。


『……ユキナリ!ライネ!よかった、連絡が着いて……』


 その声を聞いた瞬間、二人も心から安堵した。


「かははっ、悪いな姫さん」


「申し訳ありません殿下、こんな夜分に」


『いいのよ、こちらはもう昼なんだから』


「「あ」」


 そうだったと、二人は顔を見合わせる。

 【サディオーラス帝国】は、端から端で時差がある国だ。

 二人がいるここは帝国最東端、かたやセリスフィア皇女がいるのは帝国最西端。

 時差も当然ある。


『それよりも、任務の報告でしょう。聞かせて頂戴』


「……はい殿下。先輩」


「おう。改めてになるが……悪い、姫さん。任務は失敗した。王国軍はもう、帝国領内に入っちまったよ」


『……そう』


「数は減らしたけど、明らかに演習なんかじゃないな。あのバカデカい馬車も静かに走るし、確実に隠蔽いんぺい用だろ」


「そうですね。あの大きさであの静かさ……森の中を走る為、更には身体を隠す事にうってつけですから」


『それで、あなたたちはどうしているの?今は?』


「俺等は東の村に近い所だ。前に報告した、天使のおチビの村だよ」


『その場所に、現在進行形で王国軍が攻め込んでいるという事?』


「……そうなります、すみません殿下」


 ライネは申し訳なさそうに、【ルーマ】に向かって頭を下げた。

 姿は見えないのだが。


『……』


「姫さん?」

「殿下?」


 言葉が途切れた。

 不思議そうに顔を見合わせる二人に、帝国皇女セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラスは……こう言う。


『――では二人共、新たな任務です。帝国領土、東の村……地図にも無い、名前も記されない村でも、そこは帝国の土地。王国の侵攻があるのなら、守ります。私の名に傷をつける事は許しません……いいわね二人共、守りなさい。村を――私も、これから向かいます・・・・・・・・・っ!!』


「――え、ええ!?」


「かははっ、了解だぜ姫さん!」


 そうして【ルーマ】の通信は途切れた。


「ど、どうするの?」


「言われた通りにするしかないだろな。姫さんは、帝国領土であるあの村を守りたいんだろ……自分が来るくらいだし、あーこれはあれだな、きっとエリアも来るぞ」


 ライネは「えぇぇ」とげんなりする。

 黙っている訳がない女神の行動……簡単に予測が出来てしまった。


「さ。行くぞライネ!あの天使のチビ助を援護だっ!かーっはっはっは!!」


 相談も何もなく、ユキナリは走り出した。


「……ま、まぁ……黙り込んでいるよりは、マシかしら」


 そんな先輩の背を見ながら、ライネも動く。

 数時間前のユキナリとの落差に驚きはするが、今の馬鹿らしい方があっていると、そう思ったのだった。

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