8-50【防衛戦4】



◇防衛戦4◇


 距離は短い。

 時間にして数秒。たったのそれだけで、私は次の地点に辿り着いた。


「止まりなさ……って言っても、どうせ聞かないんでしょうね」


 もう無駄な事に力を使いたくない。

 そっちがその気なら、私だって話す舌を持つつもりがない。


「【クラウソラス】……【光翼貫線光フェザー・レイ】っ!!」


 まずは加減をする。

 天上人に【超越ちょうえつ】した……その事実を確認したい。

 ミオのように、圧倒的な力を持てたのか、ミオの力になれるのか。


 【光翼貫線光フェザー・レイ】の数は、単純に翼が増えたことで倍増した。

 まるで宙に光の線が撒き散らされた様に、視界を埋め尽くすほどの光線が降り注いだ。

 当然、的確な狙いで。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――


「……も、申し訳なくなるわね。駄目だと分かっていても」


 そう、駄目。

 脳天から光線を穿うがたれた騎士たちは、次々に倒れていく。

 しかし、それも一瞬。先程と同じく、彼らはゾンビのように立ち上がり、空にいる私はガン無視して、先を目指そうとする。


「やっぱり。おかしいわよね……まるで自分の意思がないみたい。これじゃあ、戦いなんて言わないでしょう。どんな人間の指示を聞いているって言うのよ」


 考えられることは多々ある。

 上位の魔法。未知の魔物の力。転生者の能力。


「可能性としてはやっぱり、あの旗の象徴……か」


 女神を御旗みはたに掲げる、白い騎士の集団。

 聖女を崇拝すうはいする一団。


「これじゃあゾンビ映画じゃない……苦手なのよ、ホラー」


 ワラワラと進軍するその軍団は、心臓の弱い人ならショックで気を失うかもしれないレベルのモノ。私にはそう見えた。

 足を引きずり、首を傾げて、フラフラと。


「どうすれば止められるかしら。【光線剣レイブレード】で、さっきみたいに一掃する?だけど、周囲の損害も大きいし……」


 私は夜空に浮かんだまま考える。

 なるべく早く、早急に答えを出さないと。


「……魔力や精神を斬っても、肉体を斬っても進んでくる。消滅させない限り」


 予測できるのはおそらく、四肢を切断しても、彼らは痛みも感じずに、這ってでも進もうとすると言う事。


「麻薬に近いのかしら……神経が麻痺して、痛みも何も感じなくなっているとか」


 脳や魔力回路を犯して、人格そのものを強制的に失わされている。

 痛みを感じない、感情もない、死なない兵士。


「そんなの、あまりにも可哀想だわ……」


 予測したそれが、真下にいる兵士たちの姿だったとしたら、私に出来ることはなんだろう。


「動きを、封じる……?足を斬り落として?」


 ミオのような地殻操作は、私には出来ない。

 地面を操作できれば、動きだけなら封じることは出来るのかもしれないけれど。

 残酷な事しか浮かばない……私は首を振る。


「足を斬ればスピードは落ちるだろうけど、それでも進んでくるのがこの兵士たちだわ……だから駄目。【クラウソラス】……お前には、何ができる?」


 右手に持つ光の剣を見て、私は考える。

 その間にも、兵士たちは北門を目指して南下していく。


「時間が無い、これ以上は考えている暇が……ない」


 刻一刻と、村に迫る王国の騎士。

 話も通じない……それならやはり。


「――斬るしかない。動けなくなるまで、消滅させるまで」


 これが最終決断。私がうだうだ悩んでいるうちに、森は燃え、村には危険が迫る。

 ファンタジーの世界で、私は人の命を奪った……本来ならば咎を与えられるその行為、しかしこの世界では、殺しは称賛される。神が決めた、世界のルールなのだから。

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