8-49【防衛戦3】



◇防衛戦3◇


 極太の光線。それをまとった剣は、高熱線となって地面に降り注いだ。

 傷とかダメージとか、そんなものでは答えにならない、この世から影も形も残らない……そんな一撃。


 調整すれば、きっと精神だけを削って気絶させられる。

 そんな甘い考えは、初っ端でくじかれた。

 殺意をって振るった剣も、理不尽に立ち上がる騎士には意味がなかった。


 大勢。一人では相手に出来ないほどの、そんな物量で押し寄せる騎士たちは。


「……」


 私の視界は……無になっていた。

 無。何もない……焼け焦がれた後の、焦土。


「――うっ……ぇぇ……」


 今日は食事を取っていなかった。

 それが幸いして、吐瀉物としゃぶつは出なかった。


「……はぁ、はぁ」


 馬鹿らしい。

 人の死なんて慣れている。

 何度も見て来た、切って来た。


 そでで拭い、手で口元を押さえて、それを実感する。


「殺した……私が、人を殺した……」


 今この場にいた騎士は、数十人。

 それを一度に……消滅させたんだ。

 一瞬で、光にした。


「……馬鹿らしい、こんなの……」


 震える。凍えてしまいそうなほどに。

 自分では制御できない、そんな寂しい感情。

 まるで人を辞めてしまったような……そんな感覚。


「……?」


 なに?この感覚。


 私の感覚がおかしいのかしら?

 さほど……心が痛まなかった。


 気持ちの悪さに吐いた。

 悪寒のように震えた。だけど……それは一瞬だけ。


「魔力が、戻ってる?これ……なに?」


 変な感覚だった。

 まるで自分では無い様な、生まれ変わったかのような。


「……まさか」


 ミオが言っていた、【超越ちょうえつ】?


 私は立ち上がり、手足を確認する。

 今までの魔力量を遥かに超えた、沸きあがるような、抑えられないような魔力。


「これが……天上人・・・


 この世界の人口、三分の一に相当する種族、天族。

 その上位種、天上人。

 ミオと同じく、超えて行った存在。


「……前世で遺体を扱っていた私が……人の死で強くなるなんて……最低ね」


 ――!!


「来るっ」


 感じる。魔力の波動だ。

 【超越ちょうえつ】したことで、【感知かんち】の範囲が格段に広がったのね。

 これなら、集中すれば。


「……七、八、九……」


 単位は百。つまり。


「……千人」


 この数、一人で戦うには馬鹿らし過ぎる。

 明らかにこれは異常……物量任せの、侵攻だ。


「でも、今の私なら……」


 やれる。

 私は人を殺めた……そのとがはいずれ、次に死ぬときにでも償うわよ。

 償いきれるかは、怪しいけれど。


「【天使の翼エンジェル・ウイング】っ……!」


 バッサァァァァァァア――……!!


「あ、わぁぁぁぁ?……って、ええ!?増えてるぅぅ!?」


 背中の勢いがおかしかった。

 光が集結して形作られる翼が、二翼増えていたからだ。


「あ、あぁ……動くわね、ちゃんと」


 まさか【超越ちょうえつ】したから?

 計四翼になった私は、空に浮かぶ。


「ちょちょ、ちょっと待って、光り過ぎだからっ!」


 目立つ目立つ!だけど止められない。

 どうしようもないし、扱い方が難しい。


「あ~もう!!慣れるしか……ないっ!!」


 ギュン――と、四翼を振動させて、微粒子の魔力が噴射される。

 勢い良く、まるでジェット機のように、私は飛び出した。

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