8-48【防衛戦2】



◇防衛戦2◇


 魔力を斬る。

 精神を斬る。


 どちらもこの世界の人間にとって、受ける損害は大きいはず。

 この世界に、治療をする為の能力や魔法は、根本的には存在しないと、どこぞの女神が言っていたが。

 例外を既に私が持っている事を考えても、即死コースの一撃を受けて立ち上がる、この白い鎧の騎士たちが恐怖に思えた。


「どうして……!?」


 【孔雀貫線光ピーコックレイ】は完全に脳天や心臓を穿うがった。

 魔力も込めた。手加減なんて一切していない。


「くっ……なら!!」


 立ち上がった騎士たちは、私を無視して門へ向かう。

 まるでゾンビのように這い上がり、無言で。


「【結晶剣クリスタル】っ!!……物理的に、動きを!!」


 【クラウソラス・クリスタル】は、物理ダメージを可能にする派生能力だ。

 精神ダメージを与える通常モードの正反対の、肉を切り裂く剣。


「行かせないっ」


 駆けて、騎士たちを何度も斬り付けながら、門に背中を預ける。

 ドンっと背中を鳴らして、【クラウソラス・クリスタル】の切っ先を騎士たちに向けるが、騎士たちは一切変わらずにこちらを見ない。

 まるで私が眼中にないような……侮辱にも似た、そんな気がした。


「どんどん増える……いったいなんなのよ!あなたたちはっ!」


 ダメージは確実に与えている。

 今しがた走りながら斬って来た数人の騎士も足を斬られ、今は倒れて……


 ムクリ。ムクリ。ムクリ。


「な、なんで……っ!!――くっ!」


 ガキン――!!


 起き上がった騎士が剣を振るった。

 門の前に構えた事で、ようやく私を敵とみなしたのかも知れないわね。


 私と一人の騎士が鍔迫つばぜり合いをする中、他の斬られた騎士たちも出血など構いもせず、止血もせず、ずるりと足を引きずりながらこちらへ来る。

 なんなのよ、いったいなんなのよ!


 今まで、私の剣は一撃で終わると、殺してしまうんだと思ってた。

 【クラウソラス】を使えるようになってからも、調整しながら、殺さないように心がけて来た。

 でも考えを変えた。殺さないと守れないから。

 だから今、他者の命を奪い、自分の心を呪って、これからはそうして生きていくんだと……なのに。


「はな……れてっ!!」


 キィィン――と、力任せに振り切った。

 騎士は弾かれ、ドスンと尻餅をつくが……当然直ぐに起き上がる。


 ゾロゾロ。ゾロゾロ。ワラワラ。ワラワラ。


「「「「「……」」」」」

「「「「「……」」」」」


 押し寄せてくる。ゾンビのような、死なない騎士が。

 これでは、いくら斬っても殺そうとしても。

 そうして擦り減っていく、心が、精神が。


 プツン。


「こ、このっ……来ないでっ!!」


 らしくない。

 ブンブンと【クラウソラス】を振り回して、まるで刃物を持って混乱する強盗だ。


「いやっ!!」


 らしくない。

 まるで少女のように、水分を失くした、れる直前のようなか細い悲鳴を上げてしまう。

 なにが“覚悟を決めた”だ。“殺す”だ。


 死なない騎士。

 何度も立ち上がる騎士。

 死力を尽くしている騎士。


「……」


 ゾロゾロ。ワラワラ。


 背中に門を預けて、騎士たちが私を囲む。

 半円形状になった騎士たちは、私が斬った傷をものともしない。


「「「「「……」」」」」


 無言のまま、死んだ目のまま、決死の……


 決死?本当にそう?

 死力を尽くして?この彼らが?


 そう、見える?……いえ、違う。


 私は、死に物狂いで戦った女の子を知っている。

 自分が死ぬかもしれないと言う状況で、あの子は必死に戦った。


 ミオはあの子を選んだ。


「……【クラウソラス】……【光線剣レイブレード】っ!!」


 ギャ――……ン……


 天に掲げた【クラウソラス】は、光を伸ばす。

 煌々こうこうと輝く光は、夜空に走った。


「いくら斬っても、いくら倒しても駄目なのなら……」


 私も戦う。

 ミーティアのように、誰かを守るために。ミオのように。

 怯えては駄目。例え自分一人の時でも、怯えを敵に見せてはいけない。


「……全部……消すっ!!魔力を全開にしてでもっっっ!!」


 精神や魔力を斬る光に、魔力を急激に注ぐ。

 そうすることで、【光線剣レイブレード】は熱を持ち、外傷を与える熱量を生んだ。


 天まで伸びた極太の光線。

 私は、それを振り下ろす。


「「「「「――!!」」」」」


 ドッ――!!


 熱線となった【光線剣レイブレード】を、騎士の塊に叩きつけた。

 生とか死とか、そんなものは一切考えない、消し去ると言う選択を以って。

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