8-46【豊穣の村侵攻作戦7】



◇豊穣の村侵攻作戦7◇


 村の東口に、ミオの幼馴染ガルス・レダンがいるはず。

 私はそこに向かっている。


「――いた、ガルスっ!!」


「え?……え、え?」


「こっちよ!!」


 ガルスは、突如聞こえて来た私の声に戸惑いながらも、上を向く。


「ク、クラウさん!?」


 スタッと着地し、【天使の翼エンジェル・ウイング】を解除。

 少しでも魔力を温存しないと。


「どうしたんですかこんな夜中にっ!びっくりしたんですけど!!」


「びっくりしたじゃない!北を見なさい!」


「え――あ、おわぁぁぁ!な、何ですかあれ……真っ赤だ……」


「炎よ。王国の騎士たちが攻めて来て、【ステラダ】への中継点を燃やしたの、今見て来た」


「え……や、ヤバいじゃないですか!?」


 初めからそいうのが欲しかったわよ。

 移住者なんて相手にしなければよかった……言っても遅いけれど。


「ヤバいのよ。だから協力して。いいわね……ガルスは警備隊と自警団、それに避難をうながして。それから、他の場所からの移住者は話を聞かないから、無視していい……アイシアには怒られるかもしれないけど、そうしないと村の人たちまで巻き込まれるわ」


「いや……で、でも何で、王国は、【ステラダ】との提携は!?」


 正確には【ステラダ】ではなく、【クロスヴァーデン商会】なのよ。

 個人でのやり取りになるし、大臣となったダンドルフ会長なら、一方的に破棄も出来るでしょう。


「――そんなものは始めから無かったと思いなさい!いいから行くっ!!」


「ひぃ!わ、分かりました!――と、クラウさんは!?」


 走り出しながら、ガルスが心配そうに言う。


「私は……村への侵入を防ぐわ。北口に向かう……【天使の翼エンジェル・ウイング】!!いいわねガルス、私の訓練を耐えたんだから……男を見せてっ」


「――は、はい!!」


 ガルスが向うのは警備隊と自警団の詰所。

 村の中央までかかる時間と説明の時間を考えれば、数十分。

 しんば説得に失敗して、避難の時間がとれなかったら……私が全身全霊で、王国騎士たちを……殺すっ。


 前世では抱いてはいけない、殺意と言う感情。

 命を奪うその行為……大切なものを守る為、私は……手を血に濡らす覚悟を決めた。


 夜空がどんどん赤くなってる。

 これはきっと、周辺の森にまで炎が移ったのね、容易に想像できる。

 まだ北側だけだけど、これがもし全域にまで広がったら……地獄だ。


「北口!」


 村の北口の上空で滞空し、周囲を見渡す。


「暗いけれど……炎のおかげで多少は見える。皮肉ったらないわね」


 北口の門番も、事の重大性に気付いたのか既にいない。

 これで避難誘導とかしていてくれればいいけれど、もし【ステラダ】からの人だったらと思うと……いや、そう言うのは駄目ね。

 これだと、全部が全部敵に見えてしまうわ。


「……!!」


 見えた。流石にあの大きな馬車は見逃さない。

 音は小さくても。図体までは隠せないもの。


「全部で四台、百人乗っているとしても……四百か……」


 一人で四百人。

 分かり切っているのは、全部を相手するには、魔力が持たないと言う事と……もしミスをすれば、死……まっしぐらという事だった。

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