8-45【豊穣の村侵攻作戦6】



◇豊穣の村侵攻作戦6◇


 夜空を飛び、まだ小さな魔力の反応を感知しながら、私は北東を目指す。

 完全ではない魔力を節約しながら、それでもなんとか様子見だけでもと、村に迫る危機をどうにか回避しようと考えながら飛ぶ。


「……見え……っ!!」


 見えた。と、口にしようとした。

 しかし、あの大きな馬車の姿を視界に映した瞬間だった。


「空が……赤く」


 空中で急停止し、その光景を私は見る。

 王国と帝国の国境、ミオが作った国境の中継点で、炎が舞い始めたのだ。


「あそこには、【クロスヴァーデン商会】が派遣してくれた宿の従業員たちがいるのに……――ま、まさかっ」


 嫌な予感がした。

 だけど、【クロスヴァーデン商会】の会員は、王国の人間でしょう。

 つまりは同胞になる、そんな酷い事をしているとは……思いたくもないけれど。


「この火の勢い、これじゃあ森にまで火が回るっ……」


 風が出ていた。

 自然風か、それても人工的に魔法で強くされたのかは分からないけれど、もしも自然風なら……大自然も敵と考えなければなくなる。

 こんなタイミングで強風を起こすなんて、まるで収穫前の台風じゃない。


 炎を消すすべが、私にはない。

 せめてあの炎の元凶を知れればと、翼を振動させてゆっくりと近づく。


「くっ……これはっ」


 闇夜に紛れる事で、最大限まで近付く。

 そして見えてしまう惨状。


「駄目……もう、消すどころじゃないわ」


 周囲にはテントが幾つか設営されているけど、どうしてこうも……あの白い騎士たちは冷静でいられるの?

 まるで、ろう人形のように……微動だにしない。


「【リューズ騎士団】の旗は無いわね。あれは……め、女神の旗ぁ?」


 翼の生えた大剣。

 それは【リードンセルク王国】の旗だった筈……でもあの女神の旗は?


「見たところ、あの白い騎士たちのものよね……でも、そういえば」


 ミオと一緒にいた時、【ステラダ】の人が噂をしていたような。

 でも……詳しくは。


「こうなるんだったら、もっと深く聞いておけばよかったわ……まぁでも。女神ってだけで、胡散臭うさんくさいわよね」


 女神を主にした旗の可能性は、おそらく転生者。

 それ以外にも女神信仰はあるだろうけど、こんな事をしてくるとは思えない。


「法に縛られた場所から来た、倫理的な事を度外視どがいしした……タガの外れた人間。それが転生者」


 自分が、まだそこまで行っていない事を願い、私は後退する。

 ここが終われば、もう次は村だもの……だからなんとか、防がないと。


 一人でどこまでできる。

 数は圧倒的。【光翼貫線光フェザー・レイ】で奇襲する事も考えたけど……落ちてしまえば、その圧倒的な物量で押し潰されてしまう。

 失敗は出来ない。してはいけない。


 夜空を赤くする悪意は、もう直ぐ村に来てしまうのだから。

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