8-37【村娘の想い4】



◇村娘の想い4◇


 今の発言。ただの一般人に出来るとは思えない。

 友達を公然の前でけなされ、許せないと言う思いと、しかしこの状況においては効果的な一言であると、理解してしまう。


「ハーフ?」

「ああ、だからか……」

「騙されているんだ!!」


「ち、違っ……私は!」


「――いいのよ、イリア。もういい」


「クラウ……私はただ、ごめんなさい……」


 人間よりも長く、エルフよりも少しだけ短い耳を押さえて、イリアは涙を堪える。

 トラウマを吹っ切ってここまで頑張って来た人に対して……いとも簡単におとしめる様な事をする、そんな人間を――私は許さない。


 あの言葉を言った男は逃げようとしている。

 狙っていたんだ、この状況を。なら敵よ……動けなくしてっ。


「……【クラウソラ】――」


「駄目です!!」


「ア、アイシア……っだけど!」


 右手に一瞬だけ発光したかがやきに、その男はびくりと反応して逃げ出す勢いを強めた。

 アイシアに止められて……見失う。


「いいんです。これ以上は」


 優しげな顔だった。

 これから起こる事が噓だと、そう言ってくれればどれだけ安堵できるか。


「移住者の方は、事実を目の当たりにしなければ……納得しません」


「そうだろうけど、その時彼らに……居場所は無いわよ?」


「ふふっ……今聞いた事を、クラウさんが言わなければいいんですよ?」


 アイシア……貴女あなたはあんな事を言われても、あの人たちを許すと言うの?


「――命は美しい」


「アイ……シア?」


「アイシア?どーしたの?」


 リアちゃんが心配そうに、トコトコと傍による。

 アイシアは目線を合わせるようにしゃがみ込み、優しくリアちゃんの両頬に手を当てて。


「リアちゃん。どう……えるでしょ?」


「!」


 まさか……自分が見た光景を、せているの?


 リアちゃんは無言で、瞳を紫にかがやかせた。

 それを意味するのは……EYE’Sアイズとしての、能力の発動。


「……あっち。あっちから来る。悪いのが……大きくて、沢山……ううぅ」


 ゆっくりと指を指す方角は、北東。

 ミオが整えた街道がある……【豊穣の村アイズレーン】と【ステラダ】繋ぐ街道だ。


「ごめんねリアちゃん。でも、ありがとう……もう直ぐ来てしまいますっ。クラウさん、せめておじさんたちにっ!」


「え、ええ……でも、平気なの?その、二人共」


 ああ、言葉が上手くまとまらなくて、たどたどしくなってしまう。

 EYE’Sアイズの能力を、アイシアはどんどん開花させていっている。

 それが痛々しくて、悲しくて……申し訳ない。

 アイシア本人にも、アイズにも……ミオにも。


「はい。平気です。リアちゃんにてもらったのは……兵士が歩く姿です。ただ、私の光景だと景色まで映らなかったので……リアちゃんなら感覚で方角が分かりますから」


 だからて、あっち……つまり街道方面だと確定させたわけね。

 しかも近いらしい……もう近いのね、王国の兵士……そうなれば、きっと【リューズ騎士団】もいる。

 ミーティアに大怪我をさせて、ミオにも不自由な思いをさせた奴らが。


 これ以上、今度は村まで……被害に合わせる訳にはいかないわ。

 私の全部を懸けてでも、絶対に守って見せる。

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