8-38【村娘の想い5】



◇村娘の想い5◇


 【リードンセルク王国】からの移住者である村人たちの説得は、分かってはいたけれど失敗に終わった。それでも、悲観している暇はない。

 元からこの村に長く住んでいる、私の知り合いたち……この村を、長く、多く考えてくれているだろう人々たちの説得だ。

 時間がかかるかも知れないと、移住者の説得は早めにしたのが正解で、問答などなかったかのように悪意をぶつけられて、やはり他国の人間なんだと思い知った。


 それでも、キルネイリアやリアちゃんのような、そんな他国の人たちもいる。

 ミーティアやジルたちのような人もいる……それは分かっている。

 分かってはいるけれど、やりきれない思いと言うのはどうしても生まれる。

 アイシアが止めなければ、私はきっとあの男を斬っていた。


 そんな男をすら、アイシアは助けようとする。

 慈愛じあいを以って、まるで女神のように。


「――平気?まだ走れる?」


「はぁはぁ……へ、平気です。これでも農業で鍛えてますからっ」


 ニコッと笑みを浮かべる。無理矢理なものだけど。


 現在、走る私たちは村長宅……私の実家に向かっている。

 あの場から南に南下し、学校を経由しているが……私一人ならともかく、アイシアのスピードが出ない。

 イリアも多少の疲れと、精神的なダメージがあるだろうが、頑張ってくれている。

 リアちゃんは言わずもがな……一番体力あるわよ、羨ましい。


「そう。なら頑張りましょう、時間が無いのでしょう?」


「はい、おそらく今日中には……始まります・・・・・。だから、おじさんやおばさんたちだけでも逃げて貰わないと駄目です。そうしたら……あたしたちも次の行動に移れますから」


「……そうね」


 始まる。一体何が……と言うのは愚問ね。

 きっと王国の兵士が、この村に到着する。今日中に到着する可能性があるのなら、今ごろは……中継点である休憩所辺りかしら。

 ミオが作った休憩所。そして大きな馬車も通れる、整地された街道……ん?大きな、馬車?


「……イリア、三ヶ月前に【ステラダ】で見たあの大きな馬車。あれなら、街道を通れるわよね?」


 脳裏をよぎったのは、三ヶ月前に見たあの大馬車。

 百人乗っても大丈夫的な、そんな大きな馬車。


「あ!あの鉄馬車ですか……確かに、凄く静かに動いていましたし。リアちゃんが言う大きなもの?というのも納得できます」


 イリアが言うように、あの馬車はいつ動いたのか思わせるほどに静音だった。

 だから近隣が接近に気付けない可能性は高い。だから準備は最低限、少なくとも古くからこの村に住む人たちだけは逃がさないと。


「確かに。あれになら大人数乗れる……あれに兵士が沢山乗っていたとしたら、その情報が一つの大きなものにとらえられるのもうなずけるわ」


「ですね。急がないとっ」


 パパもママもレイン姉さんもコハクも、ロクッサ家の人も。


「そうね。さ、行くわよアイシアっ」


 アイシアの手をつかみ、走り出す。

 心を通わせられない移住者ならともかく……古くから顔を合わせて来た知り合いたちなら、家族たちなら、言葉を信じてもらえるはず。


「……」


 アイシアの不安そうな顔を横目に確認して。

 その紫色の瞳に映る自分の顔が険しいものだと……気付かずに。

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