8-36【村娘の想い3】



◇村娘の想い3◇


 この移住者の村人たちは、初めから話を聞くつもりなんて無かったのね……私が村長の娘とか、学校の首席とか、そんなものは一切関係ない。

 王国生まれであるこの人たちにとって、三ヶ月前のアレを間近に見ていない時点で、王国軍は完全なる味方。

 受け入れるべき存在なんだわ……だから、武装した兵士が来るから逃げようなんて言っても、誰も聞きやしない……最悪よ。


「あのっ、話を!」


「もういいってお嬢さん。なぁ皆、王国兵が来たら歓迎しよう!うちらが作った野菜を食ってもらって、そうすれば国に貢献こうけんできるってもんだろ?」


「おー!それはいいな!」


「ちょっと!話を聞い――」


「あーもう!うるさいなぁ!!行こうぜっ」


 なにを言っても無駄。

 そもそも聞くつもりがない人間には、正論を言っても意味はない。

 噓や暴言をした時だけ……こぞって叩いてくるんだから。


「……」


 閑古鳥かんこどりが鳴く店先のように、移住者の村人たちは……去っていく。私はもうそれを止めようともしない。無駄だと、分からされてしまったから。


「――待って下さい!!」


「!……アイシア??」


 その声は、普段のアイシアからは想像も出来ない大きな声。

 今まで黙っていたのは、早朝の失敗があったから。

 同じくイリアも話さないのは、ハーフ嫌いからの暴言を避けるため。

 そう決めていたのに……どうして。


「お願いします!あたしたちの話を聞いてくださいっ!」


 アイシアは駆け出して、バラけそうになっていた移住者たちの前に出る……私にも顔がよく見えた――瞳が、紫色に変貌へんぼうして。


「お嬢ちゃんもさ、朝から晩まで大変だな。いいのかい?家の手伝いしなくても。この村の一番の農家なんだろ?」


 【スクルーズロクッサ農園】。

 この人たち、それを知ってても私たちの話を聞いてなかったのね。


「それどころじゃないんです。野菜はいつでも育てられます、でも……命は一つなんです。誰でも同じ、たった一つの命なんです!!」


 アイシアは、この状況を知っていたのだろうか。

 いや……きっとこの光景はていない筈だ。

 ていたのなら、初めから他の手を打てばいいんだから……私を信頼してくれて、そうして話そうと思ったのに……情けない。


「村から離れて、皆さんで遠くに逃げてください!移住者の方も、昔からこの村に住んでる皆もっ!」


「遠くってどこだよ!!言ってみろ!!」


 怒号。子供は怒鳴ればいいと思っている典型的。


「どこでもいいんです!この村周辺にさえいなければ……きっと!」


「じゃあなんだ、王国の兵士はこの村を襲うってのか!?俺たちゃ王国出身の人間だぞ!元からこの村に住んでる田舎者は知らんが、俺らが被害受ける訳ねぇだろ!!」


「「「!!」」」


 なんてことを言うの。

 まるで自分たち以外は関係ないと、【豊穣の村アイズレーン】を守ってきた人たちは死んでもいいと。そう言われた気がした。


 これには後ろで静観していたイリアも。


「今の発言は、流石に看過できかねます!私も王国出身として――」


「黙れ!!小汚いハーフエルフがっ!」


「――っ!」


 まるでイリアが口を開くのを待っていたかのようなタイミングで、その男は叫んだ。ニヤリと口角を上げて、悪魔が笑ったようだった。

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