8-35【村娘の想い2】



◇村娘の想い2◇


 どう伝える……どう言葉を並べれば信じてもらえる?

 前世でも口は達者ではなかったし、そもそも人とは話さなかった。

 生まれ変わって人生リセットと考え、クラウとしては話せるほうだと、そんな少しの自負はある。あるが……この状況は、正直言って――辛い。


「ここに来ていただいた方で全員でしょうか……出来れば、もっと多くの方に聞いていただきたいのですが」


 もっと沢山の村人に聞いて貰わないと意味が無いわ。

 噂レベルの拡散じゃ駄目。確信を持った、決定的な情報を流してもらえれば……


「おいおーい、いくら村長の娘さんだからって、こっちは忙しい中聞きに来たんだぞー?」


「そうよ。まだ仕事も残ってるのに」


「聞くのはいいけど、それなりに納得できることじゃないとなぁ」


 分かってるわよ!……っと、いけない。

 冷静でないと、心をしずめるのよクラウ、いい子でしょ。


「まずはお集まりいただきまして、誠にありがとうございます」


 こっちが先だった……マズい。それなりに緊張しているのかも。


 深々と頭を下げて、私は地面を見る。

 ポツリと、汗が垂れた。


「……この村に危険が迫っていると言うのは、既に聞き及んでいる方々もいるでしょうが。信じて欲しいのは、それが噓じゃないという事です……ですが、証拠はありません」


 調べられたら早いけれど、そんな時間すらない。

 自分たちでも分かってるわよ……無理を、馬鹿を言ってるって。


「それじゃあお話にならんでしょう。後ろにいるお嬢ちゃんが、日も上がる前から言ってたのは俺も嫁さんも聞いてるし見てたよ……でもなぁ。王国の兵士?本当だとして、どうしてそれでこの村が危ないんだ?」


「それはっ……」


 本当に危機感がない。

 日本でも、警察が近くにいるって聞いたら、それだけで怖いでしょうが!

 例え自分が何もしていなくても、何かあったんだって思う筈なのに。


「それは、なんだい?」


「それは……その兵士が、この村にっ」


「村に来て何が悪いのかが聞きたいね。【リードンセルク王国】の兵士なら、俺たちはそこから移住してきてるんだ。挨拶こそすれど、逃げるなんて女王陛下に申し訳ないよ」


「そうよね、新しく戴冠たいかんしたシャーロット陛下も、若くお美しいお方……きっと視察か何かよ!」


 どう説明すればいいのよ!

 あなたたちが生まれた国が、今住んでるこの場所を狙って来てる。

 直接的じゃ無いにせよ、そう言っているのに……これじゃあ逆効果だわっ。


 新しい女王への評価も信頼も、どうしてあんなことがあったのに高いのよ。

 あなたたちだって、家族や知り合いが兵士として連れられていたかもしれないのよ?


「あ、そうだ!是非とも俺たちが育てた野菜を王国の兵士さんたちに振舞おうぜっ!」


「……は、はぁ!?」


 な、何を言って。


「それはいい、ここで学んだ事を持ち帰れば、きっと女王陛下もお喜びだ!」


 そう言う……事なのね。

 この移住者たちは、好きこのんで移住してきた訳じゃない。

 野菜を育てる育成技術、量産するノウハウを盗みに来たんだ。


 もう、この人たちを説得するのは無理だわ。

 だってこの人たちは……王国の味方……私たちの敵なのだから。

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