8-34【村娘の想い1】



◇村娘の想い1◇


 【豊穣の村アイズレーン】北東部。

 【ステラダ】からの移住者が多いこの場所に、今、住人が集められていた。

 しかし数は多くなく、村全体の人数が集まるには程遠い。


 ここから南には、生徒も教員も増えた学校があり、更にその南には村長宅やロクッサ家がある。

 学校の裏山にはミオが育てたアボカドの木があり、【豊穣ほうじょう】の効果で季節や年季に関係なく育つ野菜や果実の生育が行われている。


「いったいなんなんだ?」


「さてね。村長の娘さんからのお願い事だとよ」


「あ~、あの大人しそうなお姉ちゃんか。レインさんだっけ?」


「いや、そっちじゃなくって。妹の方、【ステラダ】の冒険者学校に通ってる子だってよ」


「へぇ……」


「そんな子が、どうしてこんな忙しい時期に人を集めるんだい?迷惑だよまったく」


「確かになぁ。これからは冬を耐えた野菜の収穫時期だし……今日はもう遅いしなぁ」


 若い男性、中年の女性、農家の夫婦。

 様々な人たちが、今の状況を口々にする。

 その通りであり、現在は夜が近い。


「――申し訳ありません、遅くなりましたっ」


 「お、来たようだぜ?」「可愛いじゃん」などと、簡単に言う移住者の村人。

 クラウとアイシア……そしてキルネイリア・ヴィタールに連れられる【竜人ドラグニア】の少女リア。

 ここに来る前に、クラウはイリアに説明をした……王国の兵士と見られる兵団が、間近に迫っているかも知れないと。

 予想したように、イリアは納得してくれて、協力も得られた。

 しかし当然のように、同じく説明したエルフの使者、サイグス・ユランドは信じなかった。


「おいおい村長の娘さん、いったい何事だい?こんな時間にさ、明日も早いんだぜ?なぁ?」


「そうだよ、しかもこんな場所で……まるで見せもんだ」


 村人の言葉に思慮はない。

 棘の方が圧倒的に多い、外野の声と言う奴だ。


(見世物……ある意味そうかも知れないわね。私たちが……)


 村人の前に立つクラウも、その後ろに待機する三人も、冷汗を掻いている。

 これから言う事を、どれ程の人間が信じるだろうか。もしかしたら全員が素直に聞いてくれるかも知れない。そんな事は一縷いちるの望みだと、クラウとて理解している。

 聞いてくれる人間の方が、圧倒的に少ない案件……証拠のない願いかけなのだから。


「すみません、皆さんに聞いて欲しい事があって。ご存知かは分かりませんが、私の名はクラウ。村長ルドルフ・スクルーズの次女……クラウ・スクルーズです」


 頼みをする側。そう言い聞かせつつも、クラウは村長の娘だという事を前面に押し出して言葉を連ねる。


「既に一度は聞いている人もいるかも知れません、ですが……これから話すことは真実です。どうか信じて欲しい……」


 前提として、早朝にアイシアが一度言葉を向けている。

 しかし何もできず、こうしてクラウの力を借りに来た。

 だが……それもどこまで通ずるのか、クラウの言葉が、どこまで伝わるのか。

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