8-28【意志の向かう所】



◇意志の向かう所◇


 絶叫に近い程の叫び声を上げて、この男は向かってくる。

 王国所属、【リューズ騎士団】の騎士、名前は確かゲイルって呼ばれてた。

 剣技だけなら多分俺よりも圧倒的に上。ロイドの奴と戦ってもやり合えるかもしれない。

 だけど……この男はなにより、異世界人としての魔力が低い。

 能力もそこそこ。多分、剣をくっつけてきた奴だ。


「うお、おぉぉぉぉ!!」


 必死。無様なほどに。

 勝ちは無いと気付いてるはずだ。

 万が一にも勝ち目なんてない。俺はバケモノだ、魔物だ。

 そんな男に立ち向かう姿は、外から見れば英雄なんだろう。


 そしてそれを倒す俺は……“断罪者”にはなれないよな……母さん。


「――【アルキレシィホーン】!」


 なら……全力でブッ倒すしかねぇ。

 覚えた全てをつぎ込んで、奪った技をぶつける。


「俺も初めて使うんだっ!!どうなっても知らねぇからなぁぁぁ!」


 半分は自棄やけだった。

 バケモノに立ち向かうその姿が、眩しく見えて。

 俺はそれを撃退する悪役なんだから。


 六本の腕、六本の剣、巨大な翼……更には額から稲妻のような角。

 ああもう……完全に魔物だよ。

 でもそれでいいと、とっくの昔に覚悟だけはしてる。


「電撃ィィ……飛べぇぇぇぇ!!」


 亜獣【アルキレシィ】から奪った、稲妻の角。

 角の先から高電力をまき散らし、周囲を焦がす。

 あーこれヤバいかな……ライネの方にも飛ぶわ、すまん。


 バチィ!!バリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「ぐっ、くっ!こ、これしきぃぃっ!!だが――これでいい!!お前たちはもう仲間を追えまい!」


「なんだとっ!」


 まさかこの人は……最初から俺たちを足止めして、遮断しゃだんを抜けて行った仲間を【豊穣の村アイズレーン】に行かせる為に?

 足止めをしたのは俺たちの筈だろ!!


「くそっ!ゾーラ!」


 俺はライネに向けて叫んだが、返事はない。

 くっそ……遠くに離された!侮れないとは思ってたけど、思ったよりも実力はあったんだ。


「ヨルドさえ生きていれば、後はどうにでもなる!俺ごときが隊長になれるなど、誰が思うか!!」


「――もう喋んなぁっ!!」


 くそ、うざったい。

 身体が焦げて、何度も膝を着いても、立ち上がってくる。

 引いたら詰められる。だから全力で魔力を消費する……腹ならいくらでも下してやるよ!!だから……倒れてくれ!!


 バチィィィン!!


「ぐはっ……――がぁっ……」


 稲妻が直撃して、ボトリと剣が落ちた。

 いや……焦げた腕ごと……炭のようになって砕けていた。


「これで……――なっ!!」


「まだ……まだだ……っ!」


 なんで立てるんだ。足止めの目的は達成しただろ。

 そこまでして守りたい者たちなのかよ。


「もうやめろあんた。目障りなんだよっ!ここまでボコされて、どうしてそんなボロボロになってまで戦うんだっ!」


「……決まっている」


 なんだ、それは。

 俺にはない、俺には感じる事が出来ないそれは――なんだ!!


「――貴様が強いからだ……バケモノ」


「俺が……つ、よい?」


 俺が強い?そんなの当たり前で、戦う前から分かり切っている事だろ。

 そんなんじゃない筈だ、命をかけて、落とす寸前まで戦える原動力を、俺は知りたいんだよ!!


 戦って戦って戦って、本気の殺し合いの果て。

 そうしてようやく死ぬ事が出来れば、新しい人生を――


「そうだ。言葉はいらん……がはっ、はぁ、はぁ……俺が、お前を――倒す」


 血反吐ちへどを吐き、剣を持つ腕すらなくして……まだ俺に勝つ気でいる。

 分からない。分かりたくもない。


「――なら、もういい……死ねよぉぉぉぉぉっ!!」


 理解出来ない。頭がパンクしそうだ。

 こんなの……あの時……あの時……?

 あの時って?そう……あれは学校、俺の部屋。


 俺に対して、戦う事もいとわないと、俺は強いと。

 その時が来るまで、俺は。


 ザシュッ――!!


「……ぐぼふっ……!!み、見事……」


 交差して、俺は斬った。

 意志を以ってバケモノおれに立ち向かった英雄を、俺は六本の剣で斬った。

 俺の心に、何重もの重りを残して……

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