8-27【王国と帝国の軋轢6】



◇王国と帝国の軋轢あつれき6◇


 古くから、仲の悪いと言われていた【リードンセルク王国】と【サディオーラス帝国】。かつては戦いにて【サディオーラス帝国】が勝利者となり、その一部を明け渡した。

 それが最東端の一部……【豊穣の村アイズレーン】もまた、その一部だ。


「おらよっと!どしたどしたっ!反撃しねぇのかいっ!?」


 ギンッ!ギンッ!ガキィン――!!


 六本の腕と剣にて、ゲイルを圧倒するユキナリ。

 その顔は遊びを覚えた子供、まるで殺しを遊びと教えられたかのような、危ういものだ。


「……くっ、貴様!帝国の人間がっ!」


 ゲイル・クルーソーも、帝国の産まれだった。

 【女神エリアルレーネ】に転生させられた、その一人。

 しかしありがたいお声は掛からず、武芸を極める旅に出る……そして【リューズ騎士団】として、今帰郷を果たそうとしていた。


「帝国とか王国とか、そんなのはもういいじゃん!おら!!……あんただって皇帝のやりかた知ってるのに、どうして進言しないんだよ!らぁ!!」


 ガギンッッ――


「ぐっ……貴様に何が分かるっ!」


 三本の同時切りにはじけ飛び、ゲイルは腹部を斬られた。

 しかし軽症、鍛えられた筋肉で止血し、直ぐに反撃の構えを取る。


 武人技【飛剣閃ひけんせん】を何度も飛ばすが、ユキナリはその度に数本の剣を重ねて防御する。


「能力も技も、全部持っている貴様に!!」


 剣を呼び出す【デュラハンソード】も、腕を増やす【アスラハンズ】も。

 影に入った技もきっと、与えられたもの……それを持たないゲイルには。


「貴様が【女神エリアルレーネ】に与えられたものを!俺も持っていれば!!」


「――!!」


 バキィン――と、【デュラハンソード】が折れた。


「マジかよ……」


 「はぁはぁ」と肩で息をするが、視線はユキナリを睨んだままだった。

 ゾクリと背筋を震えさせ、ユキナリは。


「へへ……いいねぇ。んじゃあ、これはどうかな……――【サイレントウイング】!!」


 背に生えた腕の隙間から……更に生えて来たのは、巨大な蝙蝠こうもりの翼。音も鳴らさない無音の翼で、ユキナリは飛び立つ。

 増えた翼によって出来た大きな影から追加の【デュラハンソード】を補充し、ゲイルに突撃する。


「――がはっ……くっ、この――バケモノがっっ!!」


「バケモノで結構だよ。そんなもんはガキの頃から言われてる」


 降り立ち、ゲイルを見下ろしながらそう言う。


「魔物の能力を奪い、その一部を身体から生やして、こうして人外になるんだ。誰だって初めて見れば腰を抜かす。でも……エリアは言った。『目的を達成するには、それ相応の痛みが伴う』って。だからその度、笑って流すんだ……俺の目的の為にっ!!」


 フラフラとゲイルは立ち上がり、剣を支えに力を振り絞る。

 勝ちはない……自分でもそう思う。

 しかし、諦める訳にはいかない。同じ帝国の人間……最初はそれに動揺したが、今は【リューズ騎士団】の人間だ。

 大勢の仲間や部下も、頼りになる異世界人とももいる。


 向かうのだ、【サディオーラス帝国】に。目的地である【豊穣の村アイズレーン】に。


「うお、おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 最後の力。最後の魔力。最後の気力。

 その一撃に全てを注ぎ、ゲイル・クルーソーはバケモノに向かって駆け出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る