8-26【王国と帝国の軋轢5】



◇王国と帝国の軋轢あつれき5◇


 六本に増えた腕は、六本の剣を携え、まるで阿修羅あしゅらのように。

 飛んできた剣圧を軽々とはじき、大きな盾のように構えた格好を解除すると、そこには憎らしいほどに笑みを浮かべる黒髪の少年の姿があった。


「か~っはっは!どうよ、俺のスペシャルだぜっ!」


 亜獣【アスラ】……人型の魔物、【ドーラ】の進化した亜種であり、六本の腕を持つ帝国西部、つまりは帝都【カリオンデルサ】にほど近い場所に生息していた存在だ。

 ユキナリは数年前にそれを倒し、能力【支配しはい】によって腕を増やす能力を奪った。


「そんな事はどうでもいいっ!……どうして帝国の人間がここにいるっ!?」


 ゲイルはユキナリのテンションにはついて行かず、おのが聞かなくてはいけない事を追及する。


「どしてって、あんたも【アスラ】を知ってるんなら……帝国が今、どんな状態か知っているんじゃねぇの?」


「……」


 帝国には女神が居る。

 転生者を集め、自分の周囲に置いていると。

 それはゲイルも知っていたが、しかし自分にその時は訪れなかった。

 能力が劣っているから、自分は女神に選ばれなかった。

 ハズレ能力と言われる転生の特典ギフトは多々あれど、自身のステータスによって使い物にならないと言う弱点を持ったゲイルには、武を磨くしかなかったのだ。


「今、あんたら王国軍が帝国に攻め入られたら、か~なり面倒なことになるんだよ。知ってるだろ?皇帝がどんな人物かさぁ……」


「まさか……!」


 帝国内外でも当然知られている。

 弱肉強食をうたう、戦闘狂。

 更には女神の加護を得て、歯向かうものは食い散らかす、最強の人物だ。

 国土は世界一、人口も当然多い。

 歯向かう事すらしなければ静観し、どこぞの村のように一切の手を伸ばさない。

 それが例え自国の村であろうとも、利益のない村には興味がない。


「最近話題の帝国最東端……【豊穣の村アイズレーン】。野菜は国外で大人気、情報が遅いのは広い帝国の痛い所だけど、それでも少しずつ、あの村の情報は皇帝の耳に入っていたさ。だから……侵攻は許さないんだとさ」


「あの村に、なにがあると言う」


「さぁね。ただ……女神の名が付いた村だ。うちの女神も気にしているし、この国にもいるだろ?」


 帝都には、運命の女神エリアルレーネが。

 豊穣の村には、豊穣の女神アイズレーンが。

 そして王国には、蠱惑こわくの女神イエシアスが。

 因みに現在ミオたちがいる公国には、救世の女神ウィンスタリアがいる。


「俺は会っていない」


「そーなん?まぁいいけど……んまぁ簡単に言うと、帝国は王国の侵攻を許さない。それが例え、訓練やただの任務でも。それを防ぎたいから、うちの姫さんは……おっと、これは駄目な奴だ」


 オフレコとでも言いたそうに、ユキナリはバツが悪そうに舌を出した。

 そしてそれをきっかけに、飛び出す。

 もう会話は必要ないと、ゲイルを斬り伏せに行った。

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