8-25【王国と帝国の軋轢4】



◇王国と帝国の軋轢あつれき4◇


 「くっ!」とゲイルが短くうめいた。

 肩口を切り裂かれた裂傷れっしょうは思った以上に深く、指先に力が伝わらないほどだった。


「成功だっ、マーボの訓練も悪くねぇや!」


 何かに喜ぶユキナリ。

 マーボと言うのは、仲間である魔人、ロイド・セプティネの偽名だった。


「深い……あの一瞬で、ここまでのダメージを?」


 傷口に力を入れ、筋肉で塞ぐ。

 これもまた武人の技である、硬気功こうきこうと呼ばれるものだ。


「あれ、思ったよりも元気そうじゃん――なら」


「!」

(消えたっ……――いや、こちらか!)


 まるで霞のように消え去る少年の気配を頼りに、ゲイルは剣を振るう。

 剣は真下……自身の影だ。


「――うおっ……とっ!」


 ギィン……と、影に沈んだゲイルの剣が音を鳴らした。


「やはりそこか……」


 ゲイルは剣を引き抜き上げる。

 すると自身の剣と一緒に、まるで引かれるように共に。


「おわぁぁ!」


 飛び出したのはユキナリだった。

 磁石のように剣と剣がくっつき、魚を釣り上げるようにユキナリを影から引きずり出したのだ。


「な、な……なんだよそれ!」


「武人技、吸鉄きゅうてつ


 それはゲイルが編み出した技であり、自身の転生の特典ギフト、【吸引きゅういん】を用いた技だ。

 ゲイル個人的には、全く使えない能力であり、レベルも低い。

 魔力が極端に低いゲイルには、魔力を伴う能力が使えないのだった。


「ふんっ……!」


「だあぁぁ!」


 ぶん回され、遠心力で吹き飛ぶユキナリ。

 逆さのまま背中から落下した。


「いってぇ……」


 しかし直ぐに起き上がる。

 ゲイルは追撃しようと構え、飛び出した瞬間。

 ユキナリは丁度落ちた場所……自身が【デュラハンソード】を取り出した場所で、笑いながらこう呟いた。


「かっはっは……――【アスラハンズ】」


「むっ!!」


 魔力の高まりは能力と見る。

 ゲイルは急停止し、そのまま勢いで……剣圧を飛ばす。


「武人技っ……【飛剣閃ひけんせん】っ!!」


 地をう剣圧は、真っ直ぐユキナリを捉えていた。

 数秒後に直撃する、そう確信したゲイルだったが。


「あらよ~っと!!」


 ユキナリの背から……腕が生えた。

 文字通り、肩上部から二本、肩下部から二本、腕が出現したのだ。

 その腕は地面に刺さる【デュラハンソード】を次々に掴み取り、交差して。


 ――バチィィィッ!!


 まるで蜘蛛の巣のような形となり、六本の剣を用いて、剣圧を防いだのだった。


「その腕は……まさか、亜獣【アスラ】かっ!!」


「――やべ……知ってる人間いたんだ……こりゃあ始末書だなぁ……」


 本気でへこんでいるユキナリ。

 その知識を持っている時点で、ある決定的な事がバレたからだ。


「貴様ら……帝国の人間かっ!!」


 亜獣【アスラ】。

 それは帝国西部に生息していた、伝説的な魔物。

 つまり……帝国に居なければ出会う事も、知る事もない魔物であり、それを知るゲイルもまた、帝国にゆかりある人間という事だった。

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