8-24【王国と帝国の軋轢3】



◇王国と帝国の軋轢あつれき3◇


「あ~あ、だから言ったのに」


 「ごめん」と聞こえて来た方向を振り向きもせず、ユキナリは不敵に笑顔を見せた。まるで初めから知っていたかのように、それとも望んでいたかのように。


「随分と余裕だな。その剣……魔物のものだな」


「お!そうなんだよ、これ大変でさぁ。捕まえようにも影に逃げるし、剣は折っても何本も影から取り出すしでさぁ……こんな感じでっ!」


 ユキナリは逆の手で、もう一本の【デュラハンソード】を影から取り出す。

 一度置いて更に一本、更に一本、加えて二本。計六本の剣を取り出した。


(そんなに取り出して何の意味が)


「かっはっは!やべ、疲れた……」


(馬鹿なのか……?)


 ゲイルは戸惑う。

 まとう雰囲気と、言動が一致しない。

 ある種の強者……そう思って構えたが、喋れば喋るほどに粗が出てくる。


「それにしても、遮断しゃだんが解けちまったのは痛いよなぁ」


 二本の剣を構え、残りの剣は地面に刺した。

 それだけで、何故か接近するのを身体がこばむほどに。


 ゲイルは喉をゴクリと鳴らし、黒髪の少年へ質問を投げかける。


「お仲間はいいのか?」


「あん?いいよ別に。あいつは知識や技術を身に付けるまではいいけど、実戦経験がてんでなんだ。確かに人間相手は俺、慣れてないけどさ……あんたにも負けないぜ?」


 不敵な笑みは自信からか、それとも単なる馬鹿なのか。

 読み取れない状況でも、戦況は変わる。

 ゲイルの後ろで詠唱をしていたヨルド・ギルシャが、遮断しゃだんが解除された事で切り替え、他の団員に指示を出していた。


「……あんたが隊長なんじゃねぇの?」


「体裁はな」


「て……ていさい?」


 ゲイルは目を細めて少年を怪しむ。

 やけに言葉の知識に偏りがあると、まるで覚える順番を間違えて勉強したかのような、そんなバランスの悪さだ。


「――ゲイルさん!他の団員に指示は出しましたっす!五分後に俺たちも!!」


「……心得たっ!」


 ヨルド・ギルシャは機転が利く。

 指揮を執るゲイルが戦う以上、自分が指示を出せる最適解だと判断して、他の団員を動かした。

 ヨルドが言うには五分後……ここに居る三人が出発できなければ、【リューズ騎士団】の実質的な戦力は、今回の遠征には間に合わない。


「行くぞ少年……我が剣を、受けよっっ!!」


 飛び出しは一瞬。

 武人の技……縮地しゅくち

 その速さは、鍛えられた身体と練度のおかげで高速。

 他の団員の転生者も、目で追うのがやっとなレベルだ。


「うおっ……――はええっ!」


 ガキン――!!


「なにっ!?」


 驚いていたユキナリは、その胴斬りを剣で受け止めた。

 視線はまったく別、構えも不充分、体重も乗らない状態で。


「いや~……楽しいねぇ、対人戦も――悪くないっ!!」


 反対の剣でゲイルを叩っ切る。

 しかしブン――っと大振りで空を切った。


「……型の原型すらない。何者だ、貴様たちは……!」


 服の通りに王国の人間なら、剣技には型がある。

 多くの王国人が習うであろう、基本の型が。


「かっはっは、どうでもいいだろ別に。楽しく殺し合おうぜ?」


 ニヤリと笑うユキナリ。

 その瞬間、ゲイルの肩から血飛沫ちしぶきが舞った。

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