8-23【王国と帝国の軋轢2】



◇王国と帝国の軋轢あつれき2◇


 始まりは唐突だった。

 黒髪の少年ユキナリが突然……


「いくぜっ――【デュラハンソード】!!」


 そう叫ぶと、それはユキナリの影から現れる。

 伸びた影がうごめき、剣へと形を変えたのだ。


「……魔法?」


「いや、違うっす!あんな詠唱の魔法はないっす!だから……能力っすよ!」


 その意味合いは二つに取れた。

 一つは、この世界の人間でも取得出来るノーマルスキル。

 一つは、この世界ではない人間……つまり転生者が使う、転生の特典ギフトだ。


「察しがいいねぇ、もう隠さなくていいんだろ?ゾーラ・・・


 そうライネを呼ぶユキナリ。


「そうね。もう遅いし……戦ってみましょうか、アシュ・・・


 あらかじめ、【帝国精鋭部隊・カルマ】内で決められた偽名。

 ユキナリはそれだけは覚えていたらしい。仲間の一人に、口酸っぱく言われてはいただろうが。


「ゾーラにアシュ……それが名前?でも確か、【王国騎士団・セル】にそんな奴」


「つまりはそう言う事・・・・・だろ」


 聡く、ヨルド・ギルシャは記憶力が良かった。

 正確に仲間……王国軍に所属する名を覚えていた。


「王国の人間じゃないっすね、これは」


「んなもん襲ってきた時点で確定だろ。おいゲイル!そっちの黒髪は任せたぞ、俺はあの前髪をる……!」


「言われてんぞ前髪。遮断しゃだんは解除すんなよ?」


「――誰に言ってんのよ。対人戦では……私が先輩よ」

(【アロンダイト】の遮断しゃだんは……妨害対策で障壁を張れる。それがどこまで持つか。それだけね)


 相手が油断すれば、それだけで時間を稼げるが。


「ゲームスタートだ、馬鹿野郎っっ!!」


 先手はコーサルだった。

 ライネの予想に反して、コーサルはその場にあった石を拾い……ライネに向かって投げた。


「――くっ……初手からっ!!」


 ライネは動かない。いや、動けない。

 しかし石ころは、何かに当たってはじけた。


「そういう仕組みかよっ!」


 コーサルは左手の杖をかざし、詠唱をする。

 ライネが動けないと判断してだ。


「燃えろ空気よ、たけって盛れ!!――【ラウンド・ファイア】!」


「魔法……どこにっ――上!?」


 振動を感知し、ライネは上空を見る。

 その瞬間、空気中の酸素から発火し、輪っか状の炎が降りてきた。


「動けねぇんだろ!?だった動かしてやるよっ!」


 輪っかはライネを囲むように地面に着いた。

 変わらず動かないライネは歯嚙みしながら、どうするべきか思慮しりょした。


「障壁の周りに炎を……これじゃあいずれ、この中の酸素が無くなるっ」


 ライネの障壁は、物理も魔法もある程度は防げる万能の物だったが、酸素まではどうにもできない。いくら転生者とは言え、持って十数分だ。


「……最低だわっ!」


 相手にする男を、何も考えないタイプだと思ってしまった自分のミスだ。

 コーサルは自分で判断して、牽制けんせいで石を投げ、動けないと見るや酸素を減らしにかかると言う作戦を取った。

 それが一番の有効手段だと知らないまま。


「ごめんアシュ!」


 そう短く謝罪し、ライネは【アロンダイト】の構えを解いた。

 それはつまり、遮断しゃだんも解除されるという事。


「――悔しい、悔しい、悔しい!許せない、許せない、許せない!」


 自分が情けない。

 対人戦ではユキナリに負けないと、互角以上に戦えると思っていた。

 自信のあった技を一瞬で看破かんぱされ、ライネのプライドは傷付いた。

 しかし、それだけでは終わらないと言う意志を前髪の奥の瞳に宿して、ライネは【アロンダイト】を再び構えた。

 今度は戦闘の意思を込めた、剣技の構えで。

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