8-22【王国と帝国の軋轢1】



◇王国と帝国の軋轢あつれき1◇


 進軍を停止させられた【リューズ騎士団】の前に現れたのは、一組の男女、それも……


子供ガキだと……っ!」


 レイモンド・コーサルが歯嚙みしながら睨むのは、黒髪の少年と緑髪の少女だった。年は十代後半、どちらも軽装であり、冒険者か学生だと考えられた。

 しかし、コーサルの隣にいたヨルド・ギルシャはこう言う。


「君ら……もしかして【王国騎士団・セル】の?」


 二人が着込んでいた軽装は、王国正規軍のレザーコートだった。

 見た目だけで判断するのなら、確かにその答えがピッタリなのだが。


「そうそう、俺たちは……え~っと、ヘル?サル?」


「――セルッ!」


 黒髪の少年、ユキナリはライネへ振り返り問いかける。

 緑髪の少女ライネは、慌ててユキナリの凡ミスに小声でツッコむ。


「あ~そうそう!セルだ!!」


「「「……」」」


 【リューズ騎士団】のネームド三人は、それぞれ理解した。

 絶対に違うと。こんな間抜けが、こんな少人数で【リューズ騎士団】の進軍に横槍を入れられるものかと。


「――あれ、何この空気」


「あんたのせいでしょ!このボケナスゥゥ!」


 長い前髪の奥で涙目になりながら、ライネは少し前にミーティングまでしたことを激しく後悔した。まるで意味のない時間だったと。


「……ならば貴様らは、どこの所属だ?」


 ゲイル・クルーソーが言う。

 睨むように値踏みし、ユキナリとライネを見た。


(この人……強いっ)


 ライネは直感で感じ取った。

 剣を構えるその仕草が、剣豪のそれだと。


「どこかぁ……テルなんだけど」


「もういいわよ!意味ないからっ!」


 しかもまだ間違う始末。


「あっそ。じゃあいいや……これで集中できるってもんだぜっ」


 ユキナリは迷いを吹っ切ったかのように三人を見る。

 鋭い目つきは、先程まで名称を連続で間違えた人物とは思えないもので、【リューズ騎士団】の三人も警戒を強めた。


「剣で語れと……そういうことか」


「え、ゲイルさん!?ちょっと違うような気が……お、おいコーサルもなんか言え!」


 まるで武人。

 そんなゲイルの視線に、軍務を優先しようとするヨルドは戸惑った。

 しかし、そんな助け舟を求めたレイモンド・コーサルもまた。


「おいヨルド、俺があのガキをやる……お前は魔法で援護しろ。最悪能力を使えよ」


 コーサルは腰から剣と杖を持ち、三ヶ月前は発揮できなかった魔法剣士として実力をって、この二人を撃退するつもりなようだ。


「……マジかよ……ああもう、ザルヴィネさんがいてくれれば、多少はまとまるのに!マジで多少っすけど!!」


 隊長クラスのザルヴィネ・レイモーンも、信頼はあるが指揮値がある訳ではなかった。絶対的なリーダーの不在、それが今の【リューズ騎士団】に足りないもの。

 そしてそれが如実に表れる戦いが、始まろうとしていた。

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