8-21【危惧3】



◇危惧3◇


 侵攻部隊後方……【リューズ騎士団】。


「――何が起きた?」


「分かんないっす……急に、前進が停止しましたね。俺等だけ」


 【リューズ騎士団】は少数部隊だ。

 その半数以上が現在の団員たちに追いやられ、強制的に入れ替わりが起きているからだ。その一人がジルリーネ・ランドグリーズでもあるが、彼女は何が起きたかを知らないまま、今に至っている。本人は予測しているだろうが。


「――壁だな」


「壁すっね、見えねぇけど」


 騎士の一人、寡黙な青年は、何もない場所に手を差し出して、まるで扉をノックするように手の甲を。


 コンコン――


「壁だな。完全な」

「壁っすね。完全な」


 そんなやり取りを見た、後ろの騎士の一人が。


「――何をやってんだよお前ら!ゲイルもヨルドも、止まってんじゃねぇよ!」


「……コーサルか」


「いやいや、見てくれよコーサル。見えない壁だ」


「どうやって見るんだよ、馬鹿がっ!!」


 寡黙な男はゲイル・クルーソー。

 軽口なのがヨルド・ギルシャ。

 いきなりブチギレたのがレイモンド・コーサル。


 いずれも転生者であり、コーサルは三ヶ月前にミオに敗れた人物だ。


「何が見えない壁だっ、なんかの魔法――」


 ゴッ――!


「――いっで!!」


 いきなり空間を殴りかかり、大層な音を鳴らすコーサル。

 手を押さえながらしゃがみ込み「ぐぉぉぉぉ」と唸る。


「だから言ったっしょ、壁だって」


「――魔法の可能性もある。だが」


「そっすね。これは妨害だ……俺たちと前の、聖女様と【王国騎士団セル】を分断させる」


 二人は周囲を警戒。

 コーサルも立ち上がり、黒銀に赤いメッシュの入った髪を搔き毟り。


「くそがっ!邪魔しやがって……俺はあの金髪のガキをっ!!」


「――全員抜剣!警戒しろっ」


 ゲイル・クルーソーが叫んだ。

 彼が今回の遠征の実質的なリーダー格。

 【リューズ騎士団】の団長は別にいるが、今回は別任務だ。


 ゲイルの言葉に、少数の騎士たちは戦闘準備をする。

 今この場にいるのは、転生者三人、その他二十人の計二十三名。


「この人数を足止めできると踏んだんだ……きっと数が多いはずっす!」


 ヨルド・ギルシャは魔法使いだ。

 自前の杖の先端に光を灯し、宙に投げる。


「空気よ、振動しろ!!」


 ブブブ……と、光から放たれた魔力が空気を振動させた。


「【エア・ブレード】!!」


 周囲の空気を取り込み、光の中心から風の刃を発生させたのだ。

 風の刃は周囲の木々を切り倒し、視界を広げる。


 ドン、ドン、ドドン……と、木々が倒れ。


「――そこか。出てこい」


 ゲイル・クルーソーが大剣の切っ先を向ける。

 倒れた木々の先、視界が薄れる霧の向こうに。


「……ちょっと見つかんの早いんじゃないか?」


「仕方ないでしょ。実力者だっているでしょうよ!」


 まるで軽口。余裕を持った会話。

 そんな言葉を吐きながら現れたのは、一組の男女だった。

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