8-19【危惧1】



◇危惧1◇


 【リードンセルク王国】・【ステラダ】。

 今まさに、エルフの里や【豊穣の村アイズレーン】でその情報が伝えられている最中さなか、【ステラダ】に滞在中の【帝国精鋭部隊・カルマ】所属のユキナリ・フドウとライネ・ゾルタールは、武装し軍行する集団を見つめていた。


「――やる気満々って感じじゃあ、ねぇな~」


「そうね。覇気が感じられない……特に前の中隊、あの女神の旗の部隊が」


「……なぁライネ、そろそろ許してくれよぉ」


 一言言っておけば、ライネ・ゾルタールはユキナリ・フドウの後輩である。

 しかし、度重なる信頼失墜行為によって、ライネの中でユキナリは先輩ではなくなっていた。


「許す許さないじゃないわ、嫌いなだけ」


「ひっでぇ……かっはっは!」


 嫌いと言われて、何故か大笑いするユキナリ。

 そんなところが苦手だと言うのに。


「で、どうするの?後方の騎士になら、遮断・・を使えるけど」


「う~ん、後方って……あの青い軍旗の、【リューズ騎士団】だったっけ?」


「そう、分かりやすく鎧も青いわね。女神の旗の所は白……聖女ってのがいるらしいから」


「聖女かぁ……うちの姫さんより聖女かね?」


 それプラス、ユキナリ・フドウの母親も、かつては聖女と呼ばれていた人物だ。


「セリスフィア皇女に敵う訳ないでしょ。で、どうするの?あいつら……向かう先は帝国よ?つまりは私たちの敵。やるなら早い方がいいと思うけど」


 ライネの能力【アロンダイト】。

 その派生能力であるのが、遮断しゃだんだ。

 ライネ・ゾルタールが言いたいのは、こうだ。


 【アロンダイト】の能力、遮断しゃだんを使い、後方で進軍する青い騎士団の一行を分断する。そして各個撃破する。

 遮断しゃだんは、魔力を使い不可視の壁を出現させ、更には認識まで逸らす事が出来ると言うもので、認識阻害は前方……つまりは【リューズ騎士団】以外の騎士たちには気付かせないと言う作戦である。


「そうだな……帝国に行かれちゃあ俺たちの都合も悪いし、しかし二人じゃあ全員を相手には出来ない。奇襲さえすれば、あの青い騎士団はなんとかなるか」


「帝国に行かれるのはマズいわよ、あの規模の兵力……戦争を起こそうとしていると思われてもおかしくない」


「なんのために俺らがここにいるんだって言われちまうもんな。ロイドの奴に」


 【帝国精鋭部隊・カルマ】の仲間であり、魔人ロイド・セプティネ。

 皇女セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラスの側近である為、実力があっても離れられないのだ。


「あー、言いそー」


 メガネをクイッと直すそんな仕草をしながら、彼がそんな事を言いそうだ。と二人で納得。


「なら決まりだ。全部は無理でも、あの青い騎士たちだけは分断する。何て言うんだっけ……ああそう、孤立無援状態にするぜっ!」


「まぁ一人ではないけど、一個小隊を孤立にさせると言う意味では……め、珍しく合ってる……」


 言い間違いが多いユキナリが、孤立無援を正確に言った事に、不安を覚えるライネだった。

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