8-18【凶報は村にも3】



◇凶報は村にも3◇


 同じ国民だったのなら、敵とは思わない可能性は高い。

 だけど、ここは【サディオーラス帝国】内であり、おそらくアイシアが言う、この村に来る兵士と言うのは、【リードンセルク王国】からの兵だと予測できる。

 そうなれば、【ステラダ】からの移住者はまず疑わない。

 何かの演習や、帝国内(西の広い場所)を狙っているのだと思う人もでるはず。

 農作物を育てるのが取り柄の小さな村が標的だと、誰が思うか。


 でも、アイシアが言う兵が向かう場所は……この村だ。


「確か、村の北東側には……」


「そうです、【ステラダ】から移住者が多く住んでいます……だから」


 だから、【リードンセルク王国】の兵士が来ても不思議に思わない。

 【ステラダ】は大きな街だし、兵士だってちょくちょく来てた……でも、三ヶ月前の徴兵ちょうへいを知っていれば、少しでも疑いを持つはずなのに。


 それが平和ボケか……ここは安全だと、襲われるはずはないと疑わない。


「アイシア、村の人を逃がすにしても……どこへ?」


 そう。ここは閉鎖的な村、数年で人が増えたとはいえ、周囲は森や山だ。

 開拓もほとんどされていない。逃げ場が無いのだ。


「そ、それは……でも、村にいるよりはいいじゃないですかっ」


「――じゃあ森の中にでも逃げる?兵士たちが気付いて、そこに火を掛けられたらどうするの?」


 根本的な事として、アイシアは未来をれても、戦闘が出来る訳でもなければ、戦時の知識がある訳でもない。

 逃げろと叫んでも、その後が問題だ。

 もしも、何もなかったら……責められるのはアイシアだ。


「え……あっ」


 アイシアも気付く。


「そうよ。木々だけじゃない……そこに住む動物も死ぬわ。当然、逃げた先にいる人たちも被害を受けるし、広範囲消化なんて、この村の人では出来る訳もない」


「……で、でも、このままじゃあ」


「うん。それは分かる、信じてるわよ。アイシアの事は」


 疑っている訳ではないけれど、その情報だけでは実行できない。

 アイシアの能力――【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】は、確実に起こり得る未来だと信じられる。

 しかし、その先・・・は分からない。


「だけどね、こうして欲しい、そうしなきゃ駄目……思いだけじゃあ、誰も信じてくれないわ」


「……あたしは……ただ」


 涙ぐみ、落ち込むアイシアの肩をポンと叩き、私は声を掛ける。


「分かっているわよ。私たちは、せめて出来る事をしましょう……村人全員を逃がすことは出来なくても。その為の――戦力でしょ?」


 自分を指差し、私はアイシアに笑いかける。

 今、私に出来る事は、戦う事だ。

 自分たちを信じて……きっと、ミオだって、そうするはずだから。

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