8-17【凶報は村にも2】



◇凶報は村にも2◇


 アイシアが見た未来の光景は、どうやらすぐ近く……明日明後日のレベルで起こり得る事案らしい。

 どうすればいい、私は……


「村の人に伝えるにも、信じてもらえるかが怪しいわ」


「そうですよね。だからクラウさんにしか言わないんです」


 未来が見える。どこぞの兵士団が来る。村が危ない。

 そんな事、誰が信じるものか。

 ましてやこの村は平和ボケ……とまでは言わないが、争いなど数える程しかしていない。話しても、信じる人の方が少ないに決まっている。


「私やイリアしか戦える人間がいないのは事実よ、それは仕方がないけれど……」


 イリアこと、キルネイリア・ヴィタールは宿にいる。

 今頃ジルの使者と睨み合いでもしている事でしょうね。


「信じてもらわないと、村が滅びます」


「……」


 断言するアイシア。表情は真剣そのものだった。

 滅びる?【豊穣の村アイズレーン】が消滅するって事?


「スクルーズ家、ロクッサ家は信じてくれる可能性はあるけど」


 あくまでも可能性ね。

 村長になったパパでも、そう簡単に信憑性のない話を村内に流布るふする事はないはず。

 人口が増えて、村出身ではない人たちも多くなった。

 古くからの信頼だけでは、従うことは出来ないはず。


「いえ……うちは無理でした」


「え?」


 アイシアはもう、ロクッサ家に伝えてる?

 それでも……無理だった?


「近いうちに、春前の収穫が始まります。そのせいで、忙しくて……真剣に聞いてもらえませんでした。だからクラウさんなら、力で」


「私におどしをしろっての……?」


「最悪は」


「……」


 真剣だ。

 逃げてもらう為に、力でねじ伏せろと言っているのだ、この娘は。


「私が言っても同じよ。結局「子供だから」、そう言われてお終いよ」


「かもしれません。例え他の人が言っても、収穫前の忙しさを捨てる訳が無いんですよね」


 そう、農業の村は……収獲が命だ。

 春前の収穫、冬を耐えて育った野菜は、甘みが増してとても美味しい。

 ――ではなくて、それでも逃げて貰う為には……どうすれば。


「――撃退するしかないかもね」


「無理ですよ、兵士は凄い数なんです!数人程度の戦力では、蹂躙じゅうりんされるだけです!」


「村には警備隊も自警団も出来てる。多少は抵抗できるはずよ、敵が来たと分かれば、村人たちも素直に逃げてくれるはずでしょ?」


「そうじゃなくて!敵だと気付かない・・・・・んですっ!村の皆はっ!」


「気付かない?それって……」


 兵士が来ても、対応しない?

 襲われたとは思わない?【ステラダ】からも多くの移住者がいるから……王国の兵士を味方だと勘違かんちがいをする?


「今、村に多くいるのは【リードンセルク王国】から移住者です。彼ら彼女らは、自国の兵士を敵とは思わないから……だから、先手を打たれちゃう」


 無理矢理にでも逃げなければ、あっと言う間に制圧される。

 村を捨ててでも、命を守る。

 そうしなければ、全て失う。


 最悪の未来は、直ぐそこに迫っていた。

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