8-16【凶報は村にも1】



◇凶報は村にも1◇


 ミオがエルフの里でその知らせを聞いた時と同じく、【サディオーラス帝国】最東端、渦中の村……【豊穣の村アイズレーン】でも、その知らせが届いていた。


「……今、なんて……?」


 言葉をはっしたのは……クラウ・スクルーズ。

 ミオの姉であり転生者。実力という事を考えれば、ミオが一番信頼しているであろう人物だ。


「……」


 クラウの目の前では、オレンジ色の髪を持つ少女が真剣な面持おももちでクラウを視界に入れていた。

 今この場には二人きり……クラウとアイシア・ロクッサだけだ。


「ア、アイシア……もう一度言って、お願いっ」


 噓だと言ってくれと、クラウはそう思っている。

 しかしそれが叶わない事も理解していた。

 アイシアの瞳は紫色にかがやき、未来をる能力、【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】の発動がそれを物語る。


「はい、クラウさん。村に大勢の人……鎧を纏い、武装をした……沢山の兵士が来ます。もう直ぐ、数日もしない内に」


「――くっ!!」

(リアちゃんが言っていた悪いもの・・・・って、この事だって言うの!?)


 現在クラウとアイシアは、【スクルーズロクッサ農園】の畑で密会のような状況にある。

 早朝にアイシアから呼び出された時点で、クラウは一抹の不安を抱えてはいたが、【竜人ドラグニア】の少女リアに話を聞いた翌日にこのような話を聞かされては、対策も何もない。


「村の人たちを避難させたいんです。残念ですけど、間に合いませんから」


「ま、間に合わない?いったい誰が……」


 クラウの弟であるミオは、現在東の国である【テスラアルモニア公国】内に存在するという、エルフの里にいるらしい。

 しかし現状を考えれば……ミオが回復している事を知らないクラウには、戦力としてミオたちを含めることは出来ない。


「全部です。兵士が村に来るのも、ミオがあの場所から来るのも、ましてや撃退する事も」


「アイシア、もしかしてまた……たのね?」


「はい。でも、確実性が無くて……無理矢理にでもようとしたんですけど、出来なくて」


「無理矢理なんてだめよっ、力は使わないようにしてっ!お願いだから……」


 女神の代替品、EYE’Sアイズ

 それがアイシアの存在。【女神アイズレーン】の力を継承し、存在ごと成り代わる。

 それがいつかは誰にも分からないが、アイズの弱まりを考えるに……それは近いのではないかと感じているクラウ。


「だけど、この力があれば救えるものもあります」


「……た、淡々と言うんじゃないわよっ!!」


「すみません」


 まるで受け入れているような、自分から進んで人をやめると言っているような、そんな冷静さが……クラウは怖かった。

 ミオの幼馴染であり、形だけで言えば許嫁。

 ミオが選択した、ミーティアと言う少女と対となるような、そんなアイシア・ロクッサという少女。

 彼女の運命もまた、前進し始めていた。

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