8-7【完全復活】



◇完全復活◇


「【治癒の孔雀石ヒーリング・マラカイト】……発動!!」


 ほんの少し、【無限むげん】を発動させるよりも少量の魔力を注ぐ。

 それだけで緑色の宝石はまばゆい輝きをはっし、エルフの里を包み始める。

 薄緑色の暖かい光は俺の両腕をおおい、蛍の光のような点光となって、傷口に触れていく。


「……すごい……」

「これが、太古から伝わるエルフの秘宝……ですか」

「感動です……これ程の物が、我がエルフ族にあったなんて」


 ミーティア、ルーファウス、エリリュアさんの順に、感想が俺の耳にも入った。

 本当に凄いと思った。転生者以外で、ここまでの力を持つ存在があるなんて、正直舐めてたかもしれない。


 大昔の遺物……“石”。

 何千年も前の時代から輝き続けて来た力が、ここによみがえったんだ。


「――!?」


 な……んだ。

 今、目の前に……人??


「「「!!」」」

「――【精霊エルミナ】!?」


 それは“石”からの投影だと分かった。

 光が屈折して、形作り、人の姿に変わったんだ。


「【精霊エルミナ】……この人、が?」


 薄っすらとした姿は、完全な姿ではないと判断できる。

 だって透明だもの。


「……」


「ん?」


 何か言った?

 口元が動いた気が……ウィズ、どうだ?


『読唇術で読み取ります』


 そんな事できんの?


「こ、これは、【精霊エルミナ】の残滓ざんしか……“石”に魔力が戻った事で、顕現けんげんしたのか?」


 ジルさんもおどろいている。

 こうなる事は、文献などには載っていなかったんだろう。

 それでも、残滓ざんしって事は……何か心残り的なものがあったという事なのでは。


『――私は風樹の精霊……エルミナ。私の“石”、【治癒の孔雀石ヒーリング・マラカイト】を使用した誰か……私の姿が見えていますか?見えているのなら、正しい使い方をして欲しい……』


 ウィズが読唇術で読み取った言葉を、ミーティアがジルさんやルーファウスに伝えてくれる。

 言わずともそう言った行動をしてくれることに、心からの信頼を持てる。


『――この“石”は、私の大切な人からの贈り物……人知を超えた力を持つ、神秘の“石”です。使い方によっては一騎当千の力を授け、間違えれば……その身を悪に堕とす事でしょう』


 これは――忠告だと。

 俺はそう取った。


 発動できたという事は、プロテクトのような仕様はないと考えていい。

 それでも、残滓ざんしからこの様な言葉を告げるという事は、それなりの懸念される一因があるという事。


『私の友も、“石”の力に魅入られ……悪に身を堕としました。そうならない為に、最後に残った私は……世界中に“石”を封じたのです』


「世界中って……それ程の数があるのか、こんな力を持った“石”が」


 知る人が知れば、是が非でも手に入れたい力だ。

 悪用されないように封じたのなら、それはきっと正解だと思う。


その時・・・が来るまで、私たち精霊は眠りに就いています……私たち精霊が起きなくてもいい時代が続く事を願い、この“石”に残します……彼の力が、どうか良き心の持ち主に渡りますように――』


 スゥゥ――と、投影された姿が消えていく。


「消えた……」


「まるで忠告ですね、正しく使えと言わんばかりの」


 エリリュアさんが言う。

 実際その通りだろう、これは明らかな忠告だ。

 【精霊エルミナ】の言葉の通り考えれば、友と呼ぶ程の誰かが……悪に堕ちた。

 それと戦ったんだろうな、エルミナや他の精霊は。


「精霊は、眠ってるんですね」


「ああ、精霊界と呼ばれる……精霊にしか行けない場所でな」


 その時・・・……ってのは、いずれ来るのか?それとも、今がその時なのか?


「ミ、ミオ……腕が」


「ん……あ」


 話に夢中で、回復させていた両腕に集中してなかった。


「……痛くない。力も入る」


 拳をギュッとにぎり、何度も閉じて開く。

 この感覚、忘れた訳じゃない……でも、凄く――懐かしい。


「……」


「ミオ?」


 俺は右手を空へ伸ばして、掲げる。

 分かりにくい【無限むげん】のような能力じゃ駄目だ……もっと、一発で分かりやすい、目に見えて回復したとアピール出来るような、そんな力を。


「すぅぅぅっ――【煉華れんげ】っ!!」


 右手から放たれるのは、煉獄れんごくの華。

 天高く舞い上がる火柱。高威力、高出力、高燃費。

 弱っていては使えない、そんな大技だ。


 ゴォォォォォォォ――!!


「――わっ!……す、凄い」

「これが……ミオの……」


 ルーファウスとエリリュアさんがおどろく。

 踊る火柱を見て、首が折れ曲がるんじゃないかと思うほどにかしげて。


「……完璧だ。戻った……戻ったよティア!ジルさん!」


 痛みも倦怠感けんたいかんも、魔力消費の異常も、回路の不順も感じない。

 むしろ今まで我慢してた分、圧倒的に身体が軽い。


「よかった……よかったね!ミオっ」


「ああ!皆のおかげだよ!」


 ここに、俺の三ヶ月の停滞は終わった。

 ここからまた……進むんだ、前に……未来に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る