8-4【回復の時4】



◇回復の時4◇


 その予感は、かも・・とかもしも・・・とか、そう言った次元のものじゃない。

 確信めいた感覚は、起こりうる事象を体現する直前……そんな不思議な感覚を身に宿して、俺は準備を見守る。

 準備と言っても、太陽燦々さんさんの大空の下、緑色の宝石を置いた地面を数人で囲む、それを見ているだけだが。


「これから、わたしたち四人で交互に魔力を注ぐ。今の【治癒の孔雀石ヒーリング・マラカイト】は、完全に魔力が無くなっている状態、まさしく石と言える状態だな」


 だから魔力を注いで、ただの石を真の石……【精霊エルミナ】がその力を封じたと言う状態に戻す、ということだ。

 その手順は簡単。容量の無くなった器に、交互に魔力を注ぐだけ……言わば充電切れの端末を充電するような感じだ。

 しかし言うのは簡単だが、魔力を注ぐと言うのは案外疲労が溜まる。

 なにせ人それぞれ魔力の波長が違うのだ、それぞれ違うものを、一つの器に別々に注げば、相性によっては水と油のような状態になる。交わらないんだ。


「私はミオとの相性が良いと……じ、自分で言うのはすっごく恥ずかしいけど、それでも適応していると言う自信があるわ」


 少し顔を赤らめてミーティアが言う。

 実際に、ミーティアとの相性は俺もいいと思う。

 ミーティアの体内に俺の魔力が共存して、それで【オリジン・オーブ】も問題なく発動してる。それが証拠だ。


 しかも地下の冒険が切っ掛けか、今では安定を通り越して、【オリジン・オーブ】を完全に使いこなしてるらしいし、底知れないな、ミーティア。


「はい、ですのでお嬢様が石への魔力供給を中心に行います。わたしたち三人は、補助と言う形で、馴染みやすさを考えた結果です」


 ミーティアが七、他の三人が一ずつ魔力を注ぐ感じが分かりやすいかな。


「手順は了解しましたが、僕たちで大丈夫なのでしょうか……」


 ルーファウスはまだ少し疑問が残っているらしい。

 得体の知れないアイテムだし、疑うのは勿論理解できるけど、どう説明すればいいのやら。


「なぁに、そこは平気だ、安心するといい。この方法は大昔から、それこそ“石”の戦争があった時代からの古典的な方法だからな。先人たちのお墨付きなんだよ」


「なるほど」


 大昔の人たちの知恵と言う奴は、異世界でもあるんだな。当たり前だが。


「それでは始めようか、お嬢様」


「――ええ。任せて」


 ミーティアは一歩前へ踏み出した。

 自信に満ちた表情は、ミーティア自身も確信を持っているからか、それとも。


「“石”に触れて、魔力を注ぐ……でいのよね?ジル」


「はい。あの時ミオがお嬢様の【オリジン・オーブ】に魔力を注いだ感覚……覚えていますか?」


「勿論よ……意識は無くても、沁みついてる……覚えてるわ」


 少し恥ずかしい表現な気もするが、嬉しさもあるな。

 【オリジン・オーブ】に記憶されている情報が、ミーティアにしっかりと伝えられているんだろう。


「――行きます」


 一言そう言い、ミーティアは瞳を閉じた。

 その一瞬で、魔力光が発生して……辺り一面を緑色の光が覆った。


「……すげぇ」


 まぶしさに目を細めながら、俺たちは【治癒の孔雀石ヒーリング・マラカイト】を見つめる。

 魔力が少しずつ蓄積ちくせきする“石”は、徐々に……浮かび上がり始めた。

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