8-3【回復の時3】



◇回復の時3◇


 自信を覗かせるジルさんは、早速試そうと【治癒の孔雀石ヒーリング・マラカイト】を見つめる。

 少しの時間見つめて……ぼそりと何かを言うが、聞こえん。


「よし、それではお嬢様……ルーファウス、中にいるエリリュアにも手伝って貰って、発動させようか」


「――え、俺は?」


「ふふふ、何言ってるの?ミオは使われる側でしょ?」


「あ……はい」


 なんて間抜けな質問をしてしまったんだ俺は。

 普通に考えれば分かる事を、能動的に返答してしまって恥かいた。

 救いは、ミーティアが優しい笑顔で言ってくれて、少し気恥ずかしい程度で済んだ事だ。


「それにしても、“石”か……」


「どうかした?」


「ん、少し不思議でさ……あんな石ころに、傷を治したり、凄い魔法のような効果を発揮する力があるって事が、未だに謎でさ」


 異世界だとか、普通じゃないんだとか、そんな事はとっくの昔に理解してる。

 それでも、やっぱり不思議なことに変わりはない。

 剣と魔法の世界なんだから今更言うなよ……なんてツッコミは無粋だぞ。


「そうね。自然に完成させられた、人工物ではない結晶体……それが“石”の魔法道具だから、それでも……使用者が限られる事と、大昔にその大半の数が無くなってしまった事が原因で、知る人の方が少ないのよね」


「それだけ貴重なんだな。そ、それなのにあんなに安価なのか……」


 やるせなくなっちまうよ。

 地球であの規模の宝石が盗まれたら……大事件だもんな。

 【治癒の孔雀石ヒーリング・マラカイト】はどうなんだ?

 あのデカさの宝石だぞ、マラカイトがどれくらいの価値か、俺は全く知らないしな。


『――地球にはあの大きさで、更には人工物のように整えられた物は存在しませんね。魔力が含まれているのが大きな違いですが……“石”にはそもそも魔除けの力がありますので、地球でも不思議な力を持つと言われる“石”は存在します』


「「へぇ」」


 ウィズの解説に、二人で感心する。

 ミーティアは地球……俺とクラウ姉さんの出身の事を知りたがっていたみたいだし、今度色々と聞かせてあげて……っと、ジルさんが戻って来た。


「待たせたな。エリリュアを連れて来たぞ」


 後ろにエリリュアさん。

 片付けの途中で来てくれたのかな、すまんね。


「【治癒の孔雀石ヒーリング・マラカイト】を発動させるんですよね……【精霊エルミナ】の加護が秘められたアイテム、確かに気になりはします」


 エリリュアさんも興味があるのか。

 そりゃあエルフ族の秘宝だもんな、許可を得て持って来たとは言え、安置されている程のお宝……気にならない方が少ないか。


「ニイフ陛下はいいんですか?」


 俺は聞く。

 女王陛下ともなれば、【治癒の孔雀石ヒーリング・マラカイト】が貴重な事、俺たち以上に知っていると思うし。


「陛下は“石”の効能を存じているらしいわ。まぁ【精霊エルミナ】とも会った事があるらしいし、気にならないのでは?」


 エリリュアさんはそう言うが、ニイフ陛下はいったい何歳なんでしょうね。


「さぁ、エリリュアにルーファウス、お嬢様。【治癒の孔雀石ヒーリング・マラカイト】を発動させるのに手を貸して貰おう……ミオも、用意はいいか?」


 含みを乗せた視線で俺たちを見渡して、ジルさんはその手に乗った緑色の宝石を差し出す。


 エルフの里の陽光を浴びる、そんなひと時。

 俺の三ヶ月の苦悩が、ようやく解消される……そんな確信が、俺にはあった。

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