【混沌の王国】編

8-1【回復の時1】



◇回復の時1◇


 ミーティア・クロスヴァーデン改め、ミーティア・ネビュラグレイシャーと名を変えたミーティアの地下冒険から数日。

 凍傷と疲労、魔力切れで寝込んでいたジルさんが復活した。

 彼女が持って来た、【精霊エルミナ】の幻晶げんしょう……正式名称、【治癒の孔雀石ヒーリング・マラカイト】による、俺の治療。

 ようやく、三ヶ月と少しぶりに……俺は元通りになれるかもしれない。


「――おはよう……」


「おはようジル」

「ジルさんおはよう」

「おはようございますっ」

従姉上あねうえ、おはようございます」

「あらおはよう、ジルリーネちゃん」


 バツが悪そうな顔で起きて来た当人。

 そしてまとめて一気に返事をする、順に……ミーティア、俺、ルーファウス、エリリュアさん、ニイフ陛下。


「身体はもういいんですか?」

「ご飯食べるでしょう?」

「あ、従姉上あねうえ!そのような恰好で!」


 俺、ミーティア、エリリュアさんの順で、バラッバラの言葉をジルさんに送る。


「……いや、わたしは何日寝ていた?」


 エリリュアさんは、せっせとジルさんの世話をし出す。

 なにせ寝起きで、いつものポニテではなくロングの銀髪。

 軽鎧ではなく薄着の寝間着だもの……見ないフリ見ないフリ。


「三日よ。気絶するように寝てたわねぇ、ジルリーネちゃん」


「何も食べず寝続けて、ミーティアさんもミオくんも心配していましたけど、いびきを掻き始めたので安心しました。ね、ミオくん」


「あははっ、だなぁ。しかも寝相ねぞうも悪いし!」


「――寝言も言っていましたね」


 初日に爆睡するジルさんの場面を思い出して、つい笑っちまう俺とルーファウス。


「……お嬢様」


「分かってる。男の子二人はご飯抜き」


 結構ガチ目のトーンで、ジルさんが怒る。

 ミーティアもちょっと怒る。


「「え!!」」


 そんなこんなで、ジルさんが復活した。

 女性の恥ずかしい場面を笑ってしまった馬鹿な俺とルーファウスは昼食を抜かされ、ひもじい思いで、改めて地下の冒険の話を聞くのだった。





「マジでそんなことが?」


「ええ、地下の施設……というか、地下自体が転生者さんの力で作られていたそうよ。私とジルが戦ったドラゴンも、その力で何度も復活するらしくて……はぁ」


 あんなに苦労したのにと、ミーティアはため息交じりで説明してくれる。

 この話を聞くのは初めてだ。ウィズから聞くことも出来たが、ウィズ自身が『ミーティアに聞いて下さい、彼女は頑張りましたから』と、冒険譚は本人から聞けとの事だった。


「エルフの転生者か……まだ生きてんのかな?」


 ちょっとした疑問に答えてくれたのは、ニイフ陛下。


「エルフの国、【パルマファルキオナ森林国】が建国する前から存命だったお方ですから……流石に」


「ち、因みにそれって何年前ですか?」


 俺たち転生者がこの世界の歴史にどれ程の影響を与えていたのか、少し気になった。


「――何年などと、そんな生易しい年月ではありません……軽く見積もっても、三千年は」


「マジか」


「凄いわね、エルフの歴史って」


 ミーティアが感嘆の思いでうなずく。

 俺も同じ思いだよ、すげぇ歴史だ……だけど。


「……それを、僕の祖国が滅ぼしてしまったんですね……すみません」


 おっと、ルーファウスのネガティブな所が……


「――ふむ……さて、外に出ようとするか。【治癒の孔雀石ヒーリング・マラカイト】を試そう。ほら行くぞ、ルーファウス」


 ジルさんが、ルーファウスのネガティブ思考を逸らすかのように言ってくれる。

 すまんてジルさん……いびきとか寝相とか寝言とか言って。

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