プロローグ8-2【支配者の玉座2】



◇支配者の玉座2◇


 場所は変わって、【ブリストラーダ聖騎士団】の詰め所。

 聖女レフィル・ブリストラーダが待機する陣営だ。


「……もっと強く揉みなさい」


「「「……」」」


 椅子に座るレフィルの肩、手足をマッサージする、数人の男。

 誰もが美丈夫びじょうふである。しかし瞳に生気は感じられない。

 アレックスと同じく、聖女の【奇跡きせき】によって傀儡かいらいとなった、徴兵ちょうへいによって集められた男性たちだ。


「ふふふ……もう少しで、この椅子が玉座に替わるのよ。これほど喜ばしい事は無いわぁ……あのムカつく女王も、今に泣き顔を拝ませてあげるんだから」


 レフィル・ブリストラーダの目的は、【リードンセルク王国】の王座を奪う事だった。

 しかし、何も初めからそうだった訳ではない。


 思い出されるのは、レフィルが女王シャーロットに初めて対面した時。

 女王がまだ王女だった頃だ。


 玉座に座り、レフィルを見下す視線。そのかたわらには、レフィルを転生させた女神……イエシアスがいた。

 能力の回収、それが目的だと言い、レフィルを処そうとしたのだ。

 しかし、レフィルは生きている。今も尚だ。


(あの時の屈辱、絶対に忘れないわ……)


 さかのぼる事数年前、まだ聖女と呼ばれていないレフィルは、観光で【王都カルセダ】へ遊びに来ていた。

 生まれは【王都カルセダ】よりも北、【リードンセルク王国】でも最北端の場所にある辺境だった。

 そこを統治する辺境伯……それがレフィルの父だった。

 小旅行であり、家族で楽しむための些細なものだったが、そこでイエシアスと再会した。転生以来の再会だった。


(あの時イエシアスの言葉にしたがわなければ、アタシはここにはいない)


 イエシアスには目的があり、その為に協力して欲しいとわれた。

 二度目の人生をくれた女神の頼み、断る理由も無かったレフィルは、その足で王城へと案内され……そしてシャーロットに出会った。


(シャーロット王女、いえ女王……必ず、必ず……後悔させてやるっ)


 玉座の前で、レフィルは命乞いをした。

 何でもすると、協力すると……涙ながらに。

 死にたくない、奪われたくない……叫びながら。


 シャーロットには、転生者を判別し、そして殺す力があった。

 転生者のみを簡単に殺せてしまう、転生者キラーとも言える力だ。

 しかし、本来簡単に死ぬはずだったレフィルは、しぶとく生きた。

 そして懇願こんがんした。地面に這いつくばる虫のように。


(あの能力が何なのか、それが分からない……だから今は従う。いずれ、必ず特効を作り出して、殺してやる……っ!!)


 能力――【奇跡きせき】。

 聖女と言われるレフィルの、根本となる力。


 周囲に何人もいる、うつろな眼の騎士たち……これを操る薬、それが【奇跡きせき】だ。

 自己暗示によって、強制的に潜在能力を超強化され、騎士たちは人形となった。

 誰かは個人的に飲まされ、誰かは実験のように集団で摂取させられた。


 その結果の完成品が、【ブリストラーダ聖騎士団】。

 これから【ステラダ】……そして【豊穣の村アイズレーン】へと向かう、玉座を狙う支配者の……悪意だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る