第8章【国と国とが交わる場所で】編

プロローグ8-1【支配者の玉座1】



◇支配者の玉座1◇


 【リードンセルク王国】・【王都カルセダ】。

 レンガ造りの建造物が並ぶ街並みを闊歩かっぽする、物々しい集団。

 聖女レフィル・ブリストラーダがその実権を握る騎士団、【ブリストラーダ聖騎士団】……またの名を【聖女の盾】。

 聖女レフィルが勝手に言っているだけだが、感情を持たない機械のような騎士たちは、まさしく聖女の盾なのだろう……文字通り。


 現在、【ブリストラーダ聖騎士団】は【リューズ騎士団】と共に、南方への軍行を行う最中だ。

 指揮をるのは、王国軍の正規騎士団――【王国騎士団・セル】を退団した元・団長アレックス・ライグザール。

 彼もまた、他の騎士たちと同じ様に、抜け殻のような表情で任務を行っていた。

 しかし唯一、彼は会話が出来た……そのように命令されているのだ、聖女に。


 そんな聖女の傀儡かいらいアレックスが訪れたのは、【リューズ騎士団】のリーダー格が待機する場所だ。


「……現行の目的地は【ステラダ】です。その後は各自、与えられた任務を……【リューズ騎士団】の面々も、それでよろしいですね。支給品である物資は自由にお使い下さい……許可は得ていますので」


 光のない眼はうつろだ。

 しかし思考も出来るし、会話もまとも……かは相手次第か。


「心得た。配慮感謝する、ライグザール殿」


 アレックスの言葉に答えたのは、【リューズ騎士団】のゲイル・クルーソー。

 寡黙かもくで大人しい、隊長クラスの青年だ。

 【リューズ騎士団】と【ブリストラーダ聖騎士団】の二つの騎士団は、正式な王国の軍事力ではない。

 【リューズ騎士団】はダンドルフ・クロスヴァーデン大臣、【ブリストラーダ聖騎士団】はその名の通りレフィル・ブリストラーダの所有する組織となっている。

 なので、基本的には【王国騎士団・セル】にしたがう方針だ。


「では、失礼を」


 うつろな瞳のまま、アレックスは【リューズ騎士団】の待機所を後にする。

 その後ろ姿を見ながら、ゲイル・クルーソーに声を掛ける、もう一人の青年。

 黒っぽい銀髪に、赤のメッシュが入った、少し軽薄けいはくそうな男。


「あいつ……ミーティアお嬢様の婚約者なんだよな?ゲイル」


 レイモンド・コーサル。

 三ヶ月前にミオに敗れた、【収縮シュリンケージ】の能力を持つ転生者。


「コーサルか、準備はいいのか?」


 コーサルも怪我をしていたが、自分をかばった仲間、ザルヴィネ・レイモーンのおかげで軽症だった。

 一方でザルヴィネは、両腕を失う重傷……片腕は聖女の【奇跡きせき】で戻ったが、ミオの能力で傷付いた腕は消滅したまま、更には未だに意識不明だ。


「ああ。それより……どうなんだ?」


「――その通りだ。彼はアレックス・ライグザール……アリベルディ・ライグザール大臣の子息で、ついこの間まで【王国騎士団・セル】の騎士団長だった男だ」


「降格したのか?大臣の息子が?」


「理由は定かではないが、聖女に鞍替くらがえしたと……噂がある。今では【ブリストラーダ聖騎士団】の団長だ」


「はっ……結局女かよ、くだらねぇ」


「……」


 悪態に近い態度だが、咎める事はしない。

 それが分かるからか、コーサルはゲイルに言う。


「いいかゲイル、あのアレックスって男をよく覚えておけ。金髪に緑眼、背丈も、あの男によーく似てやがるからな、俺たちのターゲットは」


 そう吐き捨てて、コーサルは奥に戻っていく。

 クラウ・スクルーズに言われた「チャラ男」などと言う言葉が……影もないままに。


「……コーサル」


 彼は、復讐を誓っていた。

 自分に屈辱をもたらし、仲間に重傷を負わせた少年に。

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