サイドストーリー7-2【エルフの里の一幕】



◇エルフの里の一幕◇


 ミーティアとジルさんが里の地下、【リヨール響窟きょうくつ】へ行っている間、心配しすぎて心ここにあらずの俺……ミオ・スクルーズだったが、エルフの里で失礼な態度を取る訳にもいかないのは理解している。

 だから俺は今……必死になってエリリュア・シュベルタールさんの後ろをついて行っている。


 お、どうやら到着らしい。


「着きました!早速ですがこちらを見てくださいっ!この店が、我がエルフ族に伝わる銘菓めいか、【雪融けの貴婦人】を売る店、【ラーディンハイト】です!」


「おお~」


 歓声を上げたのは、同じく案内されているルーファウスだった。

 だけどそこおどろく所?


「小さなお店ですけど、昔からある有名なお菓子の老舗しにせ……まだ残っていたなんて、感動ですっ!」


 ルーファウスが言う言葉に、エリリュアさんはうんうんとうなずいている。

 あ~マジで有名なんだ。歴史書に載っている的な……それで、エルフ族がくにを追われた時には無くなったと。

 それが残ってるのは凄いな……軽く考えても百年だし。


 それにしてもルーファウスは詳しすぎだろ。

 歴史が好きなのか、それともエルフが好きなのか……う~む。


「えっと、それってどんなお菓子なんですか?」


「なんと!興味がありますかっ!それでは……」


 エリリュアさんは嬉しそうに、手をパンパン――と叩く。

 すると店内から……女性のエルフがやって来て。


「お待たせ致しました、エリリュアさま」


 まるであらかじめ準備をしていたような手際だな。

 いや、多分俺たちに見せるために用意していたなこれ。


「わぁ!こ、これがあの有名なっ!」


 なぁルーファウスくんや……君キャラ変わってないか?

 でもまぁ。気持ちはわかる。


「おー、すげぇな。貴婦人ってのもうなずけるよ」


「で、ですよね!うわぁ……歴史書で見た通りだ、感動だなぁ……」


 その外見は、まるで彫刻のようだ。

 貴婦人ってのは通称とか思ったけど、まさかそのまま人の形だとは。

 それにしても、見事な造形……フィギュアみたいだ。


「これって」


 だけどどこかで見た事あるような、というか今朝見たぞ。

 そんな造形美、まさか……いやまさか?


「ふふふっ、気付きましたかミオ。その通り、このモデルは女王陛下……ニイフ様です!」


 いいのかそれ。女王様をかたどった食品を食うの!?


「素晴らしいですっ!この作品もさることながら……陛下の美しさが百年変わらず、こうして保たれているのが神秘意外のなにものでもありません!」


「ル、ルーファウス……?」


 目をかがやかせて、出て来たお菓子を見詰めるルーファウス。

 これはあれだ……完全に歴史オタクだ。


「でもあれですね。それだと食べにくいですよね」


 俺の素朴な疑問に、二人は口を揃えて。


「「はい??食べませんよ?」」


「は?」


 ルーファウスとエリリュアさんは、二人そろってきょとんとしている。

 まるで俺がおかしなことを抜かした見たいじゃないか……やめてよね。


「えっと、お菓子……だよね?」


「「お菓子ですよ?」」


「うん?……食べないの?」


「「食べる訳ないじゃないですか、ねぇ」」


 二人で顔を見合わせて、断言。

 そうか、俺がおかしいのか。そうですかそうですか。


「このお菓子の目的は?まさかでるなんて言いません……よね?」


「「……」」


 ねぇ無言止めてマジで。


「はぁ~……マジか。なんで食品にしたんだろうな、これ」


 でもそうか、工芸品として見ればいいんだ。

 だけど、じゃあ何故食材で作ったんだ。


「「え?」」


 何故この造形美の見事な物を、お菓子として作ったのだろう。

 最初から工芸品とか、そう言った物として作れば万事解決なのに。

 食品材料はもったいないし、傷んでしまったら処分も必要だ。


「だってさ、食べ物な以上いずれは悪くなる、なら処分しなきゃいけなくなるだろ。初めから食うつもりなら、別に問題ないんだろうけど……食わないんでしょ?」


 エリリュアさんは図星を突かれたかのように。

 見れば運んできたエルフの女性もハッとしていた。


「そ、それでも、価値があるんですよ、長年の伝統なんです!」


 何故かルーファウスが弁明を始めた。

 そしてエリリュアさんも同調。


「そそ、そうです!ルーファウス殿の言う通り、伝統ですからっ」


 二人共あせり始めてんじゃん。

 気付いちゃったんだろ?お菓子である必要もないって。


「なら工芸品として、材料を変えて作り直すとか、食品で作る必要は無いな。伝統と言うなら、そっちの方向で残して行った方がいい。何故なら食品材料で作っていたら、底がつく可能性があるから。処分の必要のない工芸品なら、長い時間を残しておけるだろうに」


「う……うぅ」

「た、確かに」


 まぁ価値はあるんだろうよ。

 これだけ精巧に作られて、銘菓めいかとして売られてるんならさ。

 だけど食わん時点で、菓子の意味はない。そもそも銘菓めいかじゃない。


「ルーファウスが喜ぶのは、歴史に名が残ってるから……そんな所か?」


「は、はい。【テスラアルモニア公国】になる前からの物でしたから、興奮してしまって」


 このエルフの里は、やたらと昔の日本風の雰囲気ふんいきたたずんでる。

 家からしてもそうだ、茅葺かやぶき屋根の武家屋敷……これは他の国でもあるとウィズも言ってたけど、俺からすれば日本の建造物ってイメージだ。

 このお菓子を売る店も、まるで江戸時代の団子屋見たいなイメージだよ、ドラマでしか見た事ねぇけど。


「エルフ族たちが……もし百年前の、元の国のように戻りたいなら、これからは時代に合わせる事も考えないとな」


「――!」


 俺がボソッと言った言葉に、エリリュアさんが目を開いた。

 多分、薄々とは気付いていたんだろうさ。きっと女王様も、ジルさんも。

 特にジルさんは、この里を離れて数十年も【ステラダ】にいるんだから。


「時代に逆行するのは悪くないけど、これは効率がよろしくない。やっぱ食い物だし、もったいないからな。素材の生産率とか収穫率とか、そいうのじゃなく、モラル的なね」


「では!どうすれば……ミオ、ご教示きょうじください!!」


「僕も知りたいです!テスラアルモニアも……どちらかと言えば古風、悪く言えば古臭いですから」


 じ、自分の国を……言うねぇルーファウスくん。


「う~ん、教示きょうじって言われてもな……こればかりは歴史もあるし、簡単に崩せる土台じゃないよ」


「しかし!我々エルフは、また表舞台に立てるのでしょうっ!?」


 なるほど、さっきの俺の言葉をそう取ったか。

 俺の教えにそこまでの性能はないって。


「それはこれからのエルフ族次第じゃないですか?少なくとも俺は……ジルさんが味方に居てくれる以上、敵対するつもりはないし、教えられることがあるなら教えますけど」


 転生者としての知識は異世界では役に立つことも多い。

 特に未開惑星のような、文明が発達してない世界は。


「わ、私が陛下に進言します!!きっと陛下も同じ考えの筈……従姉上あねうえだって、きっと!」


 まぁジルさんはそうかもな。


「ルーファウスはどうなんだ?【テスラアルモニア公国】は、魔術が盛んなお国柄って学んだけど、ルーファウスはバリバリの近接だよな」


「……確かに建物などは、魔力を使って頑丈に作られています。地下をめぐる施設の多くも、魔力で作動しているはずです……それがエルフ族のものだとは、昨日知ったばかりでしたが」


 シュンとしながら、自分の国が他から奪ったものを使っていた事実にショックを受けるルーファウス。

 昨日は寝付けなかったみたいだしな、色々考えもあるだろうよ。

 今日は地下に行かなくて正解だったみたいだな。


「それはルーファウスが悪いわけじゃないだろ?百年前、ルーファウスは生まれてないんだから。それどころか、ルーファウスの親御さんだっていないだろ」


 店の前で何やってんだろう、俺。

 急にエリリュアさんやルーファウスのメンタルケアが始まったんだが。

 おかしいな……里を案内してもらっていたはずが。


「それは……」


 口籠るルーファウス。

 何が言いにくいのかは分からんがいいよ、無理には聞かないって。


「エリリュアさん、女王陛下がどう考えてるのか……それは分かりませんけど、時間はあります。ゆっくりでいいです、俺はいつでも協力しますから」


「はい……助かります、ミオ殿」


 これは、俺が安心安全に暮らすための足掛かりだ。

 エルフの里は素晴らしい、これは確か。

 しかし人がいないのも確かで、未来でエルフがまた栄えるかも分からない。


 だからこれから築いていくんだ、俺に関わってくれる皆で。

 俺の目指す……最高の村。世界一の村を。

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