第7章サイドストーリー【各自のお仕事】
サイドストーリー7-1【片隅に残る言葉】
◇片隅に残る言葉◇
ここは【豊穣の村アイズレーン】……山と森に囲まれた、自然豊かな農村だ。
近頃名を知られ始めたこの村には、女神が在している。
【女神アイズレーン】。村を起こした張本人であり、転生者……ミオとクラウの転生させた豊穣の神だ。
そしてこれは、ミオ・スクルーズ一行がエルフの里【フェンディルフォート】に向かい、辿り着き、過ごしていた時を同じくした小さな物語。
ミオの姉クラウの、村でのひと時だ。
◇
これは、アイシアが初代アイズレーンの詳細を話した次の日。
考える事だらけ、悩ましい事だらけの私……クラウ・スクルーズに降りかかった悩みの一つ。
何事も、誰もが投げ出してはいけないものの一つ……仕事をしていた時のお話。
私が村で出会った、とある転生者とのお話だ。
「……はぁ……これでいいんです?」
ため息を
両手を広げ、全身が見えるようにくるりと一回転。
スカートが
「――ええ!ええ!すぅぅ~~~~んばらしいぃぃ~~~~わぁ!」
「……」(
鼻息荒く興奮気味に、私の着る服を観察する。
私が着込んでいるのは宿、【
そんな姿を絶賛する女性……この人は。
「ね、ねぇベラさん……あなたの中身、
転生者、ベラ・イダソーン。
少し前に村に引っ越してきた、【サディオーラス帝国】のとある町からの移住者であり、戦闘力を持たないサポート系の転生者さん。年齢は不明。
私の質問に、ベラさんは唇に指をあてがわせて。
「ん~?そうよ、アタシは元・男!でも女神さまのおかげで生まれ変わって、こんな美女になったのよ!!
伏字も無意味の大音量で叫ぶ。
見た目は完全に女性なので、余計に異常な感じが出ている。
そして私は。
「……」(発言にドン引き)
私は今、どんな顔をしている?
この人の暑苦しさに、ムッとしているのではない?
だから私はそれを紛らわすように、自分を
「そ、それにしても見事ですよね、この服」
しかしそれが裏目に。
この人にとっては、それが何よりの誉め言葉だったからだ。
「はぁぁぁぁぁぁん!!――そぉぉぉうでしょぉぉぉう!?これが、このアタシ!ベラ・イダソーンの能力……【
よく分からないポーズを決めて、自慢げに
見た目は完全に綺麗なお姉さんなのに……ギャップがえぐいのよ。えぐすぎて頭が痛いわ。
「えっと……魔力で衣服を生み出せる。しかも完成品の状態で、ですか。便利ですね」
でもこの村に来てくれたのなら、近い将来が楽しみだわ。
「でっっっっしょぉぉぉう~!?最っっ高なのよアタシの能力!昔は、女になりたくてもなれない時代……たっくさん差別されたわ!でもアタシはこうして、本物の女になれた!心だけじゃなく、身体もぉぉ!!」
私の手を掴んで熱く語るベラさん。
私はその
「き、気持ちは分かりますけど……暑苦しいです!」
この人は、前世で大変だったのだろう。
心は女性で生まれたけど、身体は男だった。
でも、環境が整わず、男のまま生涯を終えた。
そして転生した……性別的に、完全な女として。
「クラウちゃん!!どんどん着て頂戴ねっ!望むものなら何でもござれ!アタシはこれでもデザイナーとして生きてきた経歴があるの!レトロな服から最先端まで!網羅して見せるわぁぁぁぁ!伊達に八十九年あっちで過ごしてねぇんだよ!!」
男出てますベラさん。
「き、着ます!着ますから離れて下さい!……私も仕事しなきゃなんで!」
そうやって会話をしながらも、私は着々と準備をする。
今日は仕出しの準備、いわゆる出前ね。
【スクルーズロクッサ農園】の野菜を使った、野菜炒め弁当。
元々は宿の食事で提供をする予定だったのだが、これがお客様に大変好評で、持ち帰りたいとお言葉が多数……その結果、お弁当として販売するのだそうよ。
私は尚も迫ってくるベラさんの肩を押して、作業に戻る。
今世では女性だとしても、前世で長年我慢して男性として生きてきた歴からか、どことなく男性っぽさが勝っている気がする。折角の美人さんなのに。
仕草とかは完全に女性なんだけどね……何故か違和感が。
「むぅぅぅん、残念だわぁぁ!!……あ!そういえばクラウちゃんのお友達」
思い出したかのように指を顎に持って行き、ベラさんは言った。
「はい?イリアですか?」
「あ~そう!イリアちゃん!!彼女もいいわよねぇ……スタイル良くて洋服映えするから、彼女も転生者なの?」
まぁ私と一緒にいればそうなるか。
私は否定する。仲間ではあるけど。
「いえいえ、違いますよ。あの子は正真正銘、この世界の人間……じゃなくてエルフですけど」
「そ~なんだぁ。なんだかアタシたちに関しての了見が広いから、もしかしたらって思ったんだけど。それにしてもエルフさんは美人なのねぇ」
イリアは確かに考え方が広いわよね。私もそう思う。
このベラさんと初めて会話した日も……すぐに受け入れていたし。
許容範囲が大きいのかもしれない。
「あの、ベラさん」
「なぁに!?」
ギュン――と顔を向けて来る。いや、圧。
「ベラさんは、何でこの前……私と初めて会った日の事ですけど、どうして自分から進んで、転生者だって言ってたんですか?」
この人は、この村に越してきて直ぐに周囲に
自分は転生者で、元・男だと。
当然ながら村出身の人も、他から越してきた人も、大概が信じないわ。
少しだけ頭のおかしい、服好きの女性と思われていたらしいけど。
例外は同じ穴の
「なんでって言われてもねぇ……けどクラウちゃん、
いや、知りませんよ。
でも、言ったかも……というか言った。
「それはまぁ、ベラさんなら大丈夫って思ったからで」
それは本当だ。
謎の安心感と包容力。
それがこのベラ・イダソーンと言う女性(前世男性)にはあった。
「あら嬉しい」
ニコリと笑う。
本当に綺麗なのに。
「でもベラさんって、種族は魔族ですよね……」
「うん?そうね、魔族ね。だけど戦いって怖いし、死にたくないじゃない?いくら魔力が高くても、アタシ非戦闘員なのよ、怖いし、怖いし、怖いしね?」
それはそうだけれど。ここは異世界よ、いつ死んでしまうか分からないわ。
「アタシはねクラウちゃん……楽しくやれればそれでいいのよ。念願の女の身体に生まれ変わって、大好きな服を作って、誰かが笑顔になる……それだけでいい」
「……ベラさん」
ハッとさせられた。
そうか……そういう考えもあるんだ。
危険な異世界って言っても、
それぞれやりたい目的が違って、生きている。
「いいですね、私もそう出来ればいいんですけど」
「きっと出来るわよ」
私には、今の所そんな考えは持てそうにない。
来月で十八才……考えは昔から同じ。
でも、立場は違う。
元々ミオ……
彼女たち……アイシアやミーティアの力になってあげたいと思った。
だから私に、休んでいる暇なんて……ないのだから。
ベラさんの語る理想を、私もいつかそうしたい。
そんな思いを心の片隅に抱きながら、私は与えられた仕事を全うするのだった。
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