エピローグ7-4【転換の準備・王国part】

※後半に、多少性的な文が含まれております。

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転換てんかんの準備・王国part◇


 【リードンセルク王国】、【王都カルセダ】。

 レンガ造りの建造物が多いこのみやこに、物々しい武装をした軍隊が幅を利かせていた。

 我が物顔で往来を行き来し、素知らぬ顔で住民を威圧する。

 当然ながら、一般人はそれを恐怖に感じる事だろう。

 何せ兵士は無言、住民からの声も聞かないのだから。


 事実、この兵士たちが現れてから、みやこの外出率は減っている。


「……あぁ~あ、しかしまぁ見事なもんっすねぇ。聖女の私兵ですか?いい御身分だよ、マジで」


 その兵士たちを見ながら、酒場で二人の男が酒を飲んでいた。

 別にそれをさかなにしている訳ではなく、軍人である彼らに与えられた自由時間だ。


「黙って飲め。これを逃したら、またしばらく帰って来れないぞ」


 その返答に、慌てて木製のジョッキをあおる。

 ゴクゴクと喉ごしを堪能して、鼻の下に泡を作った。


「ぷはぁぁぁ!うめぇっ!ぬるいけどっ」


 一言余計なこの青年は、王国に属することになった、【リューズ騎士団】の団員である。同じく、対面に座る男もだ。


「騒ぐな」


「固いっすねぇ、飲みの席だっつのに。あ、お姉ちゃんおかわりっ!二つね!」


 「はーい」と店員の女性が【麦芽酒エール】のおかわりをうけたまわる。


「んで、話戻るっすけど、あいつら人間すか?」


「人間だろう。ただし……人格があるとは思えんがな」


 聖女レフィル・ブリストラーダが私兵とする、無数の兵士たち。

 ここ三ヶ月で急増し、まるで人形のように聖女の命令を聞く従順な兵士。


 その正体は――王国各地で軍に徴用ちょうようされた……この国の民だ。


「それにしても、マジで人形っすよね。俺、城内で聖女が命令してるの見かけたんすけど……物も言わずに仕事仕事、うんともすんとも言わねぇでですよ?」


「――本人が光栄と取っている可能性もある。無理があるがな」


「でしょうね。あれが……聖女の言う“奇跡きせき”なんですかねぇ」


「あの様子を奇跡きせきと呼べるのならな……傍から見れば、あれはどう見ても異常者だ」


 従順すぎる兵士を増やす。それが奇跡きせきだと言うのなら、それは洗脳だと男は思う。

 下手をすれば、自分たちもそうなっていたかもしれないと。


「明日、予定通り【ステラダ】に軍行するが……俺たち【リューズ騎士団】の任務は――」


「わぁーってますよ。クロスヴァーデン大臣の旦那の依頼が、俺たちの目下の仕事。ミーティアお嬢様の確保と……あとは」


「――ザルヴィネさんとレイモンド、それにゼノとマルクースを倒した少年……そいつを探す事だ」


 【リューズ騎士団】は、三ヶ月前の徴兵ちょいへい時に手痛いダメージを受けている。

 隊長格を任せられる転生者、ザルヴィネ・レイモーンと同じく転生者、レイモンド・コーサルが大怪我をしたのだ。

 他にも【リューズ騎士団】の団員、ゼノ・クインターとマルクース・フィノメーが、敗北している……一人の少年に。

 中でもザルヴィネ・レイモーンは両腕を失う重傷であり、聖女の奇跡によって片腕のみは再生したが、今も意識を失ったままだ。


「コーサルの奴、自分を責めてますからね……代わりに俺らが頑張らねぇと」


「ヨルド、気負うなよ?」


「ふっ。わぁーってますよ、ゲイルさん。さて、おかわり来ましたよっ!」


 おかわりを持って来た店員に「はい、【麦芽酒エール】お待たせ!今度は冷えてますよっ」と嫌味を言われ、ヨルドと呼ばれた青年はたははと笑う。

 ゲイルと呼ばれた男も、それには口端を緩めたのだった。





 王城の一室に、ランプが点灯している。

 その部屋には窓が無く、扉が一つの密室だった。

 時刻は深夜……大体が寝静まる時間帯だ。


 この部屋の片隅、ベッドが音を立てている。

 ギシギシ、ギシギシと激しく。


「ふふっ……いいわ、本当にいいわ……悩みを持つ男は、ここまで御しやすい」


 ベッドの上では二人の男女が身体を重ねていた。

 一人は聖女、レフィル・ブリストラーダ。

 もう一人は……うつろな目をした――アレックス・ライグザールだった。


「……」


「いいわよねぇ、何も考えず、ただ快楽に溺れる……幸せでしょう?」


 汗を流し、アレックスの上にまたがる聖女は、高揚した顔でアレックスの頬に触れた。


「明日は、記念すべき実験体たちのデビューよ。貴方はそのリーダー……指揮をするの、いいわね?」


「……はい、レフィルさま」


「アタシの物になった見せしめに、【王国騎士団セル】の団長も辞めるのよ?いいわね?そうすれば【ブリストラーダ聖騎士団】の団長が出来るのだし」


「……はい、レフィルさま」


「父親、ライグザール大臣の指示も聞くんじゃないわよ?アレックス」


「……はい、レフィルさま」


 あまりの従順っぷりに、聖女は思わず。


「ぷっ……ふはっ!あは、あははははははっ!」


 アレックスの両頬に両手を当てながら、彼のうつろな目を見て嘲笑ちょうしょうを浮かべた。

 瞳に映る裸の自分は……どう見ても聖女ではなく、悪女。

 男をむさぼる、淫魔だ。


「ここまで単純だと、能力を使うのが馬鹿らしくなるわよねぇ……アタシの【奇跡きせき】が安物みたいじゃない。バーゲンセールかっての」


 アレックスは、数回レフィルとお茶をした。


「たったの数回会っただけで、ここまで深くアタシを信じるだなんて……人がいいのねアレックス。ダメよ?女を簡単に信じたら……こう言う女だっているんだから、あぁぁん……」


 この部屋で、一対一でのお茶だ。

 そのお茶に……【奇跡きせき】が含まれていた。

 聖女の私兵こと、【ブリストラーダ聖騎士団】……聖女レフィルを守るための、それだけの騎士団だ。

 兵の全てが、この三ヶ月の徴兵ちょうへいでかき集められた……国民。

 そしてその兵士全てに、【奇跡きせき】が含まれているのだ。


「ふふっ……気持ちいいわねアレックス。愛のない行為でも、こうして達する事が出来るんだもの……まぁ貴方は寝ているだけだし、イケないけれどねぇ、あはははっ」


 言わばアレックスを使った自慰行為。

 寝ているだけ、人形のように変わり果てた青年の……末路。


「ふぅ……さて、終わりましょうか。朝も早いし、きっちり仕事をなさいね……あの王女……いや女王にも、もう少ししたら痛い目を見せてあげる……あは、あはははははっ!」


 王国に蔓延はびこる悪。

 この聖女もまた……王女と同じ、悪意の塊だった。

 その隠れた悪意がぶつかり合う、王国の果てに待つものとは……




~ 第7章【暴虐の女王と転生者たち】エピソードEND~

 七章終わりです。変貌期を迎えた王国と、それに関わって行く転生者たち。

 ミオとクラウは勿論、帝国の転生者たち、それから王国の転生者たちですね。

 転生者ではないですが、転生者の武器を持ったルーファウスなんかも新登場しました。

 メインタイトルは【暴挙の女王】ですが、シャーロットは余り出番なかったですね、意味合い的には、関りのある転生者がメインでした。

 そしてヒロイン二人です。ミーティアとアイシア、全く別方向に進んでおります。

 それと残ってますね……主人公、7章は空気でした。1章以来に無力を味わってました。しかし、復活の兆し?8章はきっと!!

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