7-106【VSエルフの守護者6】



◇VSエルフの守護者6◇


 重力を無視して、ミーティアは右足に氷を発生させて壁に張り付き、そのまま弓を構えた。

 何度も火炎弾が飛んでくるが、ことごとくを相反する力で撃ち落とす。

 火炎には氷を。転生者が作りだしたドラゴンの魔力と、【オリジン・オーブ】によるミーティアの魔力は互角だった。


 宙で霧散むさんし、水蒸気となって霧状に散布される。

 その霧の向こうで、ミーティアは壁に張り付いたままするどい目つきでドラゴンを見た。


「ドラゴンなんて、架空の物語テイルの中の存在だと思ってた……転生者とか、女神とかっ!そんなの……私には関りのないものだって決めつけてたっ!だけど違う……ミオたちと出会って、それは身近な存在になってた。私もその一部だって、この力を――持ったから!!」


 壁から更に飛び跳ねて、今度は天井てんじょうにピッタリとくっついた。

 追って来た火炎弾は、壁に当たって爆散。

 転生者によるこの部屋の特殊な空間では、ドラゴンの大きさでも余裕がある。

 天井てんじょうにぶら下がったミーティアは、さなが蝙蝠こうもりのように真下に居るドラゴンを睨む。


「これでぇ……!」


 構えた氷の弓の先端に、最大の魔力を籠めて集中させる。

 球体状になった魔力は、そのキャパを大きくオーバーしてこぼれる。

 まるでしずくのように、涙の形となった。


 奇しくも、ミオが付けてくれた愛称……ティアを彷彿ほうふつとさせる。


「私はこれからもミオと共に!進んで行くっ!……誰に何を言われてももう迷わないっ!夢も恋も、全部自分で掴んで、離さないから!!」


 キュイィィィィィ――ン……と、膨れ上がる涙状の魔力は、遂に耐えきれなくなり、爆発する。

 ミーティアが最大の魔力を籠めた、この戦い最後の攻撃。

 今自分が出来る、最高の攻撃魔法。


「――【抱擁する涙インブレイス・ティアーズ】」


 瞬間的に、この涙の球体がどうなるのか……ミーティアはさとった。


 バシュン――!!と放たれた魔力の塊は、ドラゴンの頭上から襲い掛かる。

 ドラゴンも反撃をしようと何度も火球を放ったが、異常なまでの魔力の氷にはじかれ、炎はむなしく消えていく。


 そしてドラゴンに迫る瞬間、魔力の涙は爆散し、降り注ぐ雨のように、ドラゴンを抱擁ほうようするように拡散して直撃した。


 ドドドドドドドドド……土砂降りの魔力の涙は、ドラゴンの全身に降り注ぐ。

 直撃した箇所は徐々に凍り始め、動きを鈍くさせる。

 ドラゴンの巨体は、範囲が広く一撃で凍らせることは出来ない。が、何度も何度も直撃した小さな凍結点が繋がり出し、大きく範囲が広がっていった。


 グオオォォ……


 ドラゴンは炎でかそうとしたのか、大きな口を豪快に開く。

 しかし魔力の涙は、その炎すらも凍らせていた。


「――ジルっ!!お願い――」


 パキン……と、ミーティアが張り付いていた天井てんじょうの氷が砕けた。

 魔力が切れたのだ、ミーティアが最大の魔力で攻撃したことで。

 まるでミオやクラウが戦い果てるように、ミーティアは落下する。

 最後のトドメを、信頼するジルリーネにたくして。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る