7-105【VSエルフの守護者5】



◇VSエルフの守護者5◇


 グオォォォォォ……オオオ!


 まるで痛みの苦痛をうなり上げるように、尾を振り回し左翼を羽ばたかせて、エルヴンドラゴンは響窟きょうくつ内に反響させる。


 剣や魔法をはじく程の硬い鱗を持っていても、どうやら目は痛いらしい。

 苦悶?の咆哮ほうこうをあげるドラゴンは、何度も何度も尾や翼をばたつかせている。


「……やっぱり、右の翼が動いてない」


 はぁはぁと息を切らしながらも、ミーティアはドラゴンを観察する。

 その中で、やはり動かない翼が気になった。


「どうして。ん?あれは……」


 右翼の付け根に、火傷のような跡を見つけた。

 しかし単なる火傷ではない、大きな裂傷れっしょうだった。


ひび?……どうして硬い鱗にっ、急に!?」


「――お嬢様!!ドラゴンが……うわっ!」


 目の痛みだろうか、それとも翼の?

 真意は定かではないが、ドラゴンが暴れ出した。

 守るべきジルリーネエルフがいる場所もお構いなくだ。


「……」


 尾を回避するジルリーネを余所よそに、ミーティアは。


「傷を生む攻撃なんてしてない、したのはジルの炎の魔法と、私の氷の……」


 ジルリーネの【魔炎弾マ・フレーマ】、ミーティアの氷の矢。

 何度も何度も直撃していたジルリーネの魔法と、強襲に近いミーティアの凍気の一撃だ。


「炎、氷……熱、冷気――もしかしてっ」


 子供の頃に経験があった。

 冷えた物が割れる現象や、ガラスに熱湯を注いで割れた場面。


「思い出して!傷が出来た瞬間は……そう、私の攻撃の後の……ジルの魔法!」


 急激な温度の変化による氷にひびが入る現象か、はたまた夏場にガラスが割れる現象か、もしくはそのどちらもか。


「ジルっ!!魔法を撃って!炎を……翼にっ!!」


「――なにを……はっ!!分かりましたっ」


 ジルリーネも、ドラゴンの翼の裂傷れっしょうに気が付いた。

 それと同時にミーティアが弓を構え始めたことで、狙いもさっした。


「すぅー……」


 ミーティア息を吸いこみ、氷の弓を構えながら遠くへ駆け出した。

 ジルリーネも少しだけ離れ、互いに合流はあきらめた。


 グオォォォォォ!!グルルルルゥゥ……!!


 ドラゴンがにらむのは勿論ミーティアだった。

 走って遠退こうとする青い髪の獲物を狙い、炎弾を吐く。


 ドンッドンッ――と二発。

 先程のブレス然とした火炎ではなく、ジルリーネの魔法のような、単発の攻撃だった。


「コイツっ!わたしの真似事かっ!!」


「――無視して!!」


 走るミーティアが叫ぶ。

 自分へのドラゴンからの攻撃は無視して、魔法に集中しろと言うのだ。

 「しかし!」と躊躇ちゅうちょするジルリーネだったが、ミーティアが跳躍し、空中で反転して氷の矢を放ったのを見て、考えを改めた。


(お嬢様があのような動きを……急にどうして、だが……これではわたしが足手纏いだっ!)


 だから自衛を願う。

 ジルリーネは集中し、ドラゴンの背の翼……右翼の付け根に狙いを定めて、詠唱・・を開始した。

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