7-96.5【アイシアの選ぶ道4】



◇アイシアの選ぶ道4◇


 その光景は、見たことのない鉄とコンクリートの世界だった。

 明るい光はそこら中から人たちを照らし、魔物ではない大きな鉄の塊が高速で走り、空を飛ぶ。

 鉄塔よりも高い建造物には、何十何百もの人たちがひしめき合い、見た事の無い様な衣服を身に纏って過ごしている。

 外だと言うのに魔物を警戒する素振そぶりも無く、楽しそうに男女が並んで歩いている。

 恋人同士なのだろうか、イチャイチャと店の前に並んだ……その後ろに、黒髪の背の高い青年が嫌そうに並んだ。


(あれ……ミオだ)


 何故かは分からない。

 この黒髪の青年がミオだと、本能的に分かった。


(確か、クラウさんはわたしの力が未来をるものだっていったけど……これって、前世でのミオ、よね?)


 つまりは未来ではなく、過去だ。


(す、凄い陰鬱いんうつそうな顔をしてる……)


 ミオに言わせれば、ダウナー系と言い張るだろう。


(それにしても、凄い世界……広いのに、建物で狭く感じる。空気まで分かる……自然な感じが全然しない)


 視界だけで周囲を見渡す。

 見た事の無い建物は、村からすれば何が何だか分からない。

 ミオが入ろうとしている建物が、何かのお店なのだろうとは予測できるが。


(ん?……後ろに、女の子?)


 ミオの後ろに、女の子が並んだ。


 そしてその手に持つ物を、アイシアは見てしまった。

 思い出す、直前のクラウの言葉を。


『ミオは……女の子に刺されて死んだわ』


(まさかこれって……ミオが、死ぬ場面??)


 始めに襲ってきた感情は、恐怖だった。

 見た目が違うとは言え、あの青年はミオだと判別できた。

 それが今、目の前で殺される……それが、怖い。


(ど、どうしよう……わたし、何かっ!)


 どうしようもない。これは過去だ。

 そんな事は理解している、しているが、見たくはない。


(ミオっ!後ろ!!逃げてっ!)


 届く訳のない声を出す。

 そして無情にも、少女は青年に声を掛けた。


(……あ)


 一瞬の出来事だった。

 少女は、青年の左胸目掛けて、右下から突き上げるように、えぐるように刃物を突き刺した。


(い、いや……いやぁぁぁぁぁっ!ミオぉぉぉ!!)


 分かっている。これは過去で、別の世界だ。

 それでも、愛しい人が殺される場面を見せられるのは……辛い。


『あ~あ、巻き込まれて死んじゃったか。運のない男ね、ふふっ……でもよかったじゃない。今、偶然にも一人分の転生ブースが空いたわよ?ウィンスタリアの凡ミスに感謝しなさいよね……奇跡的に生還させちゃうなんてミスで、あたしにまで初の転生業が回って来ちゃったんだから』


(この声……アイズさん!?)


 その瞬間、倒れた青年から光が飛び出した。

 その光は天に昇っていく……そして、吸い込まれるように消えた。


(まるで魂みたい。神様のところに、行ったのかな……?アイズさんが、ミオを救ってくれた?そしてわたしたちの村に、スクルーズ家に生まれた?)


 アイシアは思った。思ってしまった。

 アイズ――【女神アイズレーン】が、死した誰かを救う事が出来るのなら……それはとても素晴らしい事なのではないかと。

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