7-96【リヨール響窟の戦い3】



◇リヨール響窟きょうくつの戦い3◇


 砕けた【シャドーゲル】は、破片が少しだけ動き、気味の悪さを残しながら【魔力溜まりゾーン】に還って行った。

 それを見届けた二人は。


「さて、ウィズ殿はなんと?」


「――え」


 不意にそんな事を言い出すジルリーネに、いぶかしむような「どうです?」と視線を向けられて、ブリキのような首の動きを見せるミーティア。

 言っては駄目ですと念を押されていたかのように、声を絞り出して。


「な、なぁんの……ことぉ~?……あ、あははぁ……」


 視線を逸らして、ミーティアは誤魔化ごまかそうとした。

 しかしジルリーネはたたむように。


「お嬢様。【シャドーゲル】が合体する事を知っていましたね、教えてもいないのに。それに先程……二人で・・・言わないで、とおっしゃいました。わたしと……誰でしょうね?」


「……う。ごめんなさい」


 案外折れるのが早かったミーティア。

 実際に、ウィズが助言をしたかはジルリーネには分からない。

 そして別に、それをとがめようと言うのでもない。


「ウィズ殿は、ミオが居なくてもお嬢様に語りかけられるのですね」


「う、うん……ミオに頼まれたんだそうよ。自分が怒られたくないから、ジルさんには言うなって事らしくて」


「はぁ……まったく」


 答えは簡単だ。

 ミオの能力である【叡智えいち】ことウィズは、ミオの魔力を燃料として発動した【オリジン・オーブ】を経由して、ミーティアにのみ話しかける事が出来る。

 ミーティアとジルリーネの二人で探索などと言う事を心配したミオが、ウィズに命令してミーティアをサポートさせていたという事らしい。


「私の【オリジン・オーブ】や魔法を操作できる訳じゃないから、戦いとかは私がやってたよ?」


「それは見ていれば分かります。大方……魔物の情報や、氷の能力の呼び名など、そう言った面で助言をしていたのでしょう」


「……その通りで」


 ジルリーネは壁を調べながら、何かを考えている。


「まぁいいでしょう。探索に支障はありませんし、お嬢様のお力になれるのなら、構いません。ただし、過度なお力添えは――」


「それは平気だそうよ。なんにせよ、私に小言を言ってくる感じだし……能力を使える訳でもないそうだから――うるさい」


「……」


 その通り。【叡智えいち】は、あくまでもミオの能力であり、そのミオの魔力がミーティアの体内に入っている事で、会話が可能になっているだけの事。

 魔力が安定しだしたミーティアに助言こそすれど、【オリジン・オーブ】を操作できる訳でもなければ、ミオの【無限むげん】のようにウィズが主導で発動できる訳でもない。


 『小言とは失礼な』と、ウィズはミーティアに言っているだろう。

 もしかしたら存外、相性が良いのかもしれないし、そうでないかもしれない。

 ミーティアの魔力が完全に安定し、ミオの魔力が抜ければ、会話も出来なくなるだろう。

 今だけの即席パートナーは、いったいどういう戦いを見せてくれるのか、ほんの少しだけ、期待したい。

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