7-94【リヨール響窟の戦い1】



◇リヨール響窟きょうくつの戦い1◇


「――はいっ!!」


 掛け声とともに放たれた魔力矢は空中で破裂し、無数に別たれて地面に突き刺さる。狙いは影に隠れた魔物――【シャドーゲル】。

 周囲には【バラッドスパイダー】もいる。


 地面に刺さった魔力の矢は、凍結を発生させて地面を凍らせた。

 そこから、震えるように影から現れる【シャドーゲル】。

 プルプルと、徐々に凍っていくゲル状の魔物。


「見事です。蜘蛛くもの魔物も、凍った地面に滑っていますね……便利なものだ」


 寒気に身体をさすりながらも、教え子でもあるミーティアの力に声を漏らすジルリーネ。


「あとはトドメをっ!――!?……え、は?……なんで!?」


「??……お嬢様?」


 動きを止めて、ミーティアは虚空に声を荒げた。

 しかし直ぐに。


「――な、何でもないです!トドメを撃ちます!」


 魔力は足から発生し、急激な冷気を凍った地面に直結させた。

 魔力は直ぐに形となり、その形状は……氷柱だ。


「……え~っと――ア、【氷柱の道アイシクル・ロード】!!」


「今思いつきましたね、しかし何故だろう……言わされている感が」


 地面だけでなく、壁面や天井てんじょうまでもが凍り付き、一本の道に早変わり。寒さに弱い魔物はそれだけでもこたえるだろう。

 氷柱つららは、動きを止めた魔物の真下から突き刺さり、さながらミオが使う【石の槍ストーンスピア】が突き刺さるようだった。





 魔物が【魔力溜まりゾーン】に還った。

 今度は早く、全て目に見えて消え去る。


「お疲れ様です、お嬢様」


「ええ、ありがとう……」


 どことなく不満気に見えるミーティアは、落ちた素材を鞄に仕舞いながら言う。


「今どのくらいなのかしら、目的地まで」


「まだまだです。思いのほか魔物が多いですからね……長年人が入っていなかったせいでしょうが……」


「――ジル?」


 壁や天井てんじょう、地面をくまなく調べているジルリーネ。

 どうしたものかと、ミーティアは小首をかしげるが。


「さぁ、行きましょう。問題ありません」


「え、ええ……問題がないならいいけれど」


 目的である、侵入者の形跡を調べたのだろうが。

 怪訝けげんな顔で大丈夫と言われても……と、ミーティアは思うのだった。





「お嬢様。また魔物です」


「そうね、さっきの【シャドーゲル】だわ……結構いるわね」


 うじゃうじゃと、集団で集まってくる【シャドーゲル】。

 また凍らせてやると、ミーティアは氷の弓を構えた。


「ん?……待って下さいお嬢様、なんだか様子が」


 ジルリーネは、様子のおかしい【シャドーゲル】に対しての助言をしようとしたが、ミーティアはそれより早く。


「――が、合体!?」


 と、判断していた。

 まだ教えていないのに。


 キュルキュルッ!キュルル!


 重なり合ってゆく黒い物体。

 何体もの個体は、総数で数十体だ。


「その通りですっっ!!(怒)」


「な、なんで怒ってるのよぉっ!?」


 決して助言がしたかった訳ではない。

 成長は頼もしくもあるし、なにより喜ばしい事だ。

 しかしそれだけではない、不思議な感覚……まるでミーティアが一人ではない様な、そんな感覚を、ジルリーネは感じていた。

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