7-93.5【アイシアの選ぶ道3】



◇アイシアの選ぶ道3◇


 夜は深けてゆく。

 アイシアの心に寄り添うクラウが、その言葉で、その思いでぶつかる。


 暗い村の道には、ミオが用意しただけの街灯もどきが何本も連ねている。

 クラウはそれが何かもちろん知っていたが、当時はミオが転生者だとは思っていなかった時期だ。


「ねぇアイシア。あの樹みたいなやつ……見えるでしょ?」


「え?……ああ、えっと、ミオが立ててた」


「そ。今はまだ意味のない、街灯ね。意味分からなかったでしょ?」


「……はい」


 と言うか、おそらく今も分かっていないだろう。

 この村に住み続けていた人たちは。


「あれね、電気って言って……灯りを点ける道具なの。あれ全部から光が出て、夜でも安全に、危なくなく過ごせるのよ」


「クラウさんは、やっぱりミオの考えが分かるんですね……わたしなんて」


「違う、そうじゃないわ。私がミオの言う事を理解できるのはね……」


 と、クラウは言いよどんだ。

 まるで、心が通じ合っているとでも言われたような、そんな勘違いを生んだのではと。


「?」


「……私はね、ミオと生まれた場所が同じなの」

(ごめんミオ、アイシアには話す)


「はぃ?」


 当然でしょう姉弟なのだから……そんな視線を受けながら。


「ち、違うのよ……って、アイシア、そんなさげすんだ目できるのね……おどろいたわ」


 まさか、今まで自分に対して奥手な、弱々しい接し方してこなかったアイシアから、そんな目を向けられるとは思わず、少しだけ心に傷を負うクラウ。


「す、すみません。つい」


 変な事でも言い出したのかと、アイシアは本能的に態度に出ていたのだ。


「いいけれど。と、とにかく……私とミオは、地球って世界で産まれたの。この村に産まれる前にね……その時は、星那せいなって名前だったわ」


「セイナ??……?」


 聞いても、アイシアには理解が及ばない。


「そう、前世ね。この村に産まれる前の……別の人間だった時の記憶が、私もミオもあるのよ……信じられる?」


「……ちょっとなら」


「うん、それでいい。でね、あの街灯は……私たちの世界では普通に普及していて、どこにでも、ではないけれど、多く存在してるの」


「本当ですか?……凄い、ですね」


 明かりのない街灯を見ながら、アイシアは想像した。

 無数に並ぶその棒に、眩しい程の明かりが点くのを。


「私が何を言いたいかと言うと……えっと、ね」


 言葉にするのは難しい。

 前世がどうとかなど、本来はきっと村の人たちにはしないつもりだったかもしれない。

 そもそも信じる人の方が少ないし、信じたら転生者の可能性もある。

 ミーティアやジルリーネは別として、ミオもアイシアには語るつもりはなかったのではと、クラウは思った。


「色んな事を知ってるわ。向こうの世界で三十年生きて……こっちでももう十八年。あ~……言うつもりなかったのに!年齢自覚しちゃって嫌になるわっ!」


 がっくりと、クラウは肩を落とした。

 合算すればいい年齢だ……だから星那せいな星那せいな、クラウはクラウなのだからと自分に言い聞かせて。


「人生は色々ある。なんせ向こうの世界で死んでるんだからっ!」


「……ミオも、ですか?」


「そうね。ミオは……女の子に刺されて死んだわ。私は……首を絞められて死んだ」


 首元を押さえながら、苦しそうにクラウは言う。

 それを見て、アイシアは。


「――っ!!あ……っ!」


 瞳を紫色に変えて……【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】が発動した。

 ブゥン――と、視界に広がる光景は……異世界だった。

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