7-91【地下空洞にて1】



◇地下空洞にて1◇


 新たにエルフの女王と王女から名を授かり、ミーティア・ネビュラグレイシャーとして、心機一転生まれ変わった気分のミーティア。

 クロスヴァーデンと言う生きにくくなってしまった家名をエルフの加護で捨て払い、星雲の氷河ネビュラグレイシャーと言う、流星ミーティアや青の【オリジン・オーブ】とのシナジーが生まれた。


「さぁお嬢様、準備はよろしいですか?」


「ええ、万端よ。向かいましょう――【リヨール響窟きょうくつ】へ」


 地下への入り口は、武家屋敷の下だった。

 今頃、ミオとルーファウスはジルリーネの従姉妹いとこ、エレノアから里を案内されている事だろう。


「昨夜も言いましたが、今回の依頼は……里の地下に張り巡られた迷路のような地下空洞、その調査です」


「侵入者の形跡……よね?」


 二人には悪いが、これはミーティアの三ヶ月のリハビリの成果を試すいい機会、と考えるのはジルリーネであり、その真の依頼は地下の調査。


「その通りです。それを調べます……しかし、地下には当然魔物もいるでしょう、響窟きょうくつというだけあって、音も響きますし、何より狭いです」


 ジルリーネの説明にミーティアは真剣にうなずく。


「本来ならば、もう一人前衛が欲しい所でしたが……」


「ルーファウスさんには断られてしまったしね」


「武器の威力が威力ですからね。森では戦ってくれたのですし、それに体調不良ならば仕方がありません。足手まといになるよりはと、判断したのでしょう」


 ルーファウスにも、声は掛けていた。

 彼の持つ刀――【天叢雲剣あめのむらくものつるぎ】は高威力であり、狭い洞窟内では崩落の危険がある。

 初めから、戦力としてではなくサポーターとしての誘いだったが、それも本人が断った。どうやら彼は、閉所恐怖症らしい。


「仕方がないわよね、それじゃあ……ん?ねぇジル、それは……松明たいまつ?既に火がついてるけど」


 会話しながらの準備だったが、ジルリーネが手に持つ長いものに、ミーティアは関心を持ったようだ。


「はい、魔力に反応する特殊なものです。燃料にわたしの魔力を染みこませているので、わたしが手を離すと消えるんですよ」


 地面にそれを置くと、ほわわぁ~と弱々しくなる。


「へぇ……たくさん用意できれば」

(売れそうね。旅の必需品になるかも)


「……お、お嬢様、商人出てます」


「え、あ……あははっ……」


 笑顔で誤魔化ごまかすミーティア。

 少しでも余裕があるようで何よりと、ジルリーネはフッと笑う。


「ご覧のように、この特殊な松明たいまつを持つわたしが灯り役です……本当なら、これをルーファウスにやってもらうのがベストだったのですが致し方ありません。というわけで……お嬢様、戦闘はお任せします」


「――はい。任せてっ」


 そうして、二人は地下に向けて階段を下りて行く。

 魔力を帯びた扉には、魔物が嫌う塗料が塗られ、ここから魔物が侵入する事はないと言う。


 里の地下にある【リヨール響窟きょうくつ】探索任務。

 二人での冒険、ミーティア・ネビュラグレイシャーとしての初陣。

 新たな門出。大切な人の窮地を救う為の……戦いが始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る