7-90.5【アイシアの選ぶ道2】



◇アイシアの選ぶ道2◇


 この日の数日後に、エルフの里の地にて一人の少女が生まれ変わる。

 物理的にではなく、精神的に。

 この世界において生きにくくなってしまった家名を捨て、新しく得た真名をその身に感じ……これからも変わっていく事だろう。


 それは、この村にいる少女もまた……同じなのだ。


 変わる恐怖、自分ではなくなってしまう可能性。

 青の少女とは違う立場でありながら、同じ宝珠を鍵とする。


 しかし大元となるその本質は、女神。

 そんな数奇な運命を抱える少女は、隣に座る自分よりも小さな年上のお姉さんに語る。


「……信じられないような夢を見るんです」


「――夢?」


「はい。寝てもいないのに……鮮明で、はっきりとした夢を。その夢は、現実になるんです……怖いくらいに、全部が的中して、わたしのやる事なす事、全部……」


(それってまさか……予知夢?でも、寝てないって事は……)


 聞きながらも、小さい少女……クラウは考えた。

 明晰夢めいせきむなのではとも思ったが、寝ていないと断言するならば違う。


「わたしだけじゃなくて、ミオや他の……ミーティアやクラウさんの夢も見ます。それこそさっきのように、いきなりまぶたの裏で……焼き付けられるように。そしてその夢は……時間が経つとその通りに再現されて」


「……未来視……」


 夢ではない。それは……未来をたのだと気付く。

 こんな小さく狭い村で、未来を見れるなど誰が信じるか……もしそんな事を言い出したら、アイシアはれもの扱いにされてしまう。


「未来……?じゃあやっぱり、あたし・・・てきた光景は、現実に起こるん……ですね」


 少なからず、アイシアも気付き始めていたのだろう。

 クラウだって、前世では似たような経験がある……「この光景どっかで」のような小さなものだが。

 大体は、似たような展開の夢や、過去に経験した事と似た状況に、そう思わせられているという、心理だ。


「詳しくは分からないわ。でも、そうね……少なからず、アイシアが見た光景が現実になるのなら――変える事が出来るんじゃない?」


「――え?か、変える……?」


 クラウの言葉に、アイシアは心底驚いたような、怖いものを見たような声でつぶやいた。


「そう、変えるの。見たくない光景だったり、嫌な思いをしたり……そんな事は変えてしまえばいい。だってそれが事前に判別できれば、行動によってそれは変えられるでしょう?」


「……」


 時と場合、た内容にもよるが、クラウはそう考える。

 小さく狭い村、出ていく事も出来ず、閉鎖的な状況でのそんな異能、アイシアには辛すぎる。

 ならば少しでも、それを軽減させる方法を教えたいと、クラウは示した。


「いいアイシア、視える事を恐れてはいけないわ……視えてしまったなら、そこから変えて行けばいい。難しいかもしれないし、変えられない事だってあるかも知れない……でも、足搔くの……私やミオのように、ミーティアやジルのように」


 アイシアが見た光景は、きっと数知れない。

 クラウが見知らぬ事を、アイシアは知っているのかもしれない。

 もしかしたら今日、今のこの状況すら、ている可能性だってある。


 それでも、足搔くことで変えていけるのだと、クラウはアイシアにさとしたのだった。

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